金管用下顎前歯のアダプター(2)

ロックバンドのトロンボーン奏者。演奏時に口唇が揺れるようになり、耳鼻科にてジストニアと診断されたとのこと。アレキサンダーテクニークの先生からは「口唇が開くのが原因」と言われたということで、随分口唇を閉める方向に力が入ったアンブシュアでした。

レントゲンを見ると、元々上下前歯の正中がずれているのに演奏時は合っているから、下顎骨を右側にずらして吹いているので、まずは下顎前歯が左右対称になるようにアダプターを作ってみました。真直ぐ歯を開けて、あまり口唇を閉めようとしないで楽に吹いてもらうようにしました。ようは演奏時の顎位を戻すためのアダプターです。

顎を左右にずらすとどうしても顎は動きが制限され歯が開き気味になり閉じにくい。たしかに演奏時のレントゲンで見ると歯の開きは普通より大きめではある。私は口唇の揺れは下顎骨をずらして吹いているためではないかとは思うが。

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金管で口唇が揺れるとか音が揺れるとか、スランプ&練習不足でよくある話なので、それをジストニアにしてしまうと、アマチュアの相当な割合の人がジストニアになってしまうななどと思ってしまいました。

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金管用下顎前歯のアダプター

このところクラリネットのアダプターの写真ばかり載せていましたが、最近金管楽器の下顎前歯用のアダプターを作る機会が続いたので、紹介したいと思います。

アマチュアのトランペット奏者。高音を吹いていると下唇が切れて痛くなるので高音が苦手。お友達で当院製のアダプターを使っている人が何人かいるとのこと。私の所で金管楽器用のアダプターを過去に作っても、その後再来院する人はあまりいないので、使っているのか役に立っているのか不明だなと思っていましたが、皆さん長いこと使っていて、無しでは吹けない状態だそう。

唇が切れて痛いので、というのはある意味アダプターの王道の使用目的。咬合時の被蓋は浅めだけど、演奏時のレントゲンで見ると上の前歯に比べて下の歯はやや後ろなので、下の前歯にアダプターを入れても問題なく吹けるだろうなと思いました。

上顎の側切歯が少々内側に転位しているのに合わせて調整し、予想通りすぐに普通に吹けました。元々上下の歯の間が広めだったので、アダプターを入れて顎位も変わらず息が集中するようになるので高音域が楽に吹けるのと、下顎前歯が左右対称の歯並びとなったのでリップスラーが楽にできるようになったということでした。

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昔、自分がホルン吹く用に下顎前歯にアダプターを使っていた時期があって、その頃はいろいろ実験したので、何をポイントにしてデザインすればよいか、どう調整したらよいか、何となくわかっているのであります。

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音が揺れるのはどうしてか

途中ブランクがあり5年前に再開したという50代のアマチュア・トロンボーン奏者。以前は音が揺れなかったのに、再開した後は音が揺れてしまう。そこで、奥歯にプラスチックの様なものをはめて噛んでも前歯が開くようにすれば、安定するのではないかというご相談であった。なかなかユニークなアイディアである。

実は私も学生の頃に口の中を広くして吹く道具として試しに作ってみたような気がする。あまりに昔過ぎてどうだったかよく覚えていないけど。今考えれば役に立たないことは明確。金管楽器は歯の開きを変えることで音の高さや音量・音色などのコントロールをしているから。

その人の特徴としては、下顎が小さい骨格的な上顎前突。下の前歯は前に傾斜し、被蓋は浅め。最近鼻の治療をして鼻で息ができるようになったということだが、口唇が開いていることが多いだろうなという口元であった。音が揺れる原因はいくつか考えられると思う。(演奏をしているところを見ていないから想像です。)

一つは咬み合わせが浅めで、上下前歯の切端を合わせるのが少々難しく犬歯誘導もないので、下顎が安定しにくいかもしれない。どうも金管楽器は切端咬合が安定して取れるというのがアンブシュアには大事なようだ。

もう一つは演奏時に下顎を前方に出し過ぎているかもしれないこと。何度か「演奏するときに上下の前歯を合わせるから」というワードが出てきたので、頑張って下顎を前に出して吹いているんだと思う。下顎を前方に出すと、舌骨上筋群の緊張により下唇が安定しないのだろう。若い時はそれでもなんとかなったけど40歳くらいでスランプになる事が多いようだ。

無理に下顎を前に出さず、少々顔を下向きにすると筋肉に無理な力がかからないので試してみてもらうこととした。レントゲンも撮らずアダプターも試さず、お話しだけでごめんなさい。

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アダプター、上に入れるか下に入れるか

音大受験を控えた高校3年生が来院した。レッスンで習った先生に言われ、アダプターを作りたいとのこと。本人としては、楽器の向きが曲がってしまうことが主訴であったが、上顎前突のために演奏時に下顎を前に出していることと、特に上の中切歯2本が前に出ているためマウスピースを上の前歯でくわえられないことを改善した方がよい状態だと思った。

いろいろ考えて、まず上に入れることにした。上の方が効果が高いと想像したのと、紹介元の先生が上を想定していると思われたこと、遠方からの受診で帰りの飛行機の時間も迫っており、下のアダプターをその日のうちにお渡しするのは時間的に無理であったが、上であれば模型が出来ていなくても、直接口の中でレジンを硬めて作製できるので間に合いそうだったから。

<演奏時のレントゲン写真>

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口腔内の写真(咬合時)

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アダプター装着時

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迷ったのは、下の叢生に合わせて調整するかどうか。通常咬合したときに均等に当たるように調整するのだけど、マウスピースがバランスよくくわえられるよう削らずに前歯の内側を左右対称にしてみた。時間がなかったので、いろいろ試せなかったど、これでひとまず受験の準備に専念してもらえるとよいな。

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目指す治療ゴールはいろいろ(3)

少し前に、プロクラリネット奏者で他院で4本抜歯して矯正治療中の患者さんが相談に来た話を書いたのだが、その後矯正治療を終了し保定装置になったが、やはり楽器の吹きにくさ・違和感が残るとのことで相談に再来院された。
上下の前歯が標準よりもかなり内側を向いており、前歯は上顎前突&開咬が残っているが、一応アンテリオ―ルガイダンスは取れるのでそれでよしとしたのであろうか。前にも書いたように、E-Lineにこだわり小さい顎に合わせて前歯を後ろにさげたと思われる。

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<演奏時のレントゲン>
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マウスピースを噛む上顎前歯が非常に浅い。通常の位置で噛もうとするとマウスピースが口の中に入り過ぎるためとのこと。そして下顎を非常に前下方に出している。顎関節頭は大きく前に出ていて、おそらく関節窩から外れていると思われる。前歯が過剰に内側を向いているのと、ジェット(上下前歯の前後差)が大きいのが原因であろう。そして口唇に必要以上の力が入っているようだ。

<咬合時と演奏時の重ね合わせ:黒が咬合時、赤が演奏時>
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さあどうしたものか。矯正の再治療をした方がよいのだろうか。私だったら、抜歯部位は上顎小臼歯のみとし下は抜かないで治療したと思う。それならこんなに上顎前歯も後ろに下がらない。しかし抜いて治療をしてしまったものはしかたない。私が再治療をするとすれば、下顎左右に小臼歯分のスペースをあけて前歯を前に出す。上は何とかスペースは作らずに歯列全体を前に出したい。その方が舌の居場所も出来て気道も広くなり健康にもよいであろう。もちろんクラリネットを吹くのにもよいはずだ。
しかし、長年の矯正治療を終えてようやく器具が外れたところに再治療はあまりに気の毒。そこで、アダプターを試すことを提案した。かなり楽に吹けるようになった。楽にくわえられて下顎を前に出さずにすむ。これで演奏活動をしてみて、どうしても上顎前歯の角度が気になるようであれば、再治療を検討することし、しばらくは矯正の事は忘れてクラリネットに専念してもらうこととした。

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当院に来る前に矯正治療をした歯科医師にクラリネットを演奏していることを説明すると「クラリネットの経験があるから大丈夫!」と言うので、そこで治療をすることにしたのだそう。何の経験だったのかな?

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上の前歯だけを直す

基本的には、管楽器だから治療方針を変えるということはないのだけど、クラリネット(シングルリード楽器)を吹いている人に特にお勧めしたいのが、上の前歯だけをちょっと直す矯正治療だ。1本だけ直したい歯並びってあるのだけど、その歯だけ動かしてすむわけじゃなく、全体を動かさないといけない時が多いけど、周囲をちょっと広げて何とかなることも時々ある。歯科矯正的には簡単な治療なのだけど、クラリネット演奏にはとても効果が高い。治療費が通常の矯正治療の半分以下で治療期間も短いので、前歯をさし歯(補綴処置)で直すくらいなら是非検討してみてほしい。

以前「クラリネットの上顎用小さなアダプター」(2019年4月4日の記事)としてご紹介したプロクラリネット奏者。前歯が1本だけ前に出ていて、その他がきれいだったので、アダプターを作り使用してもらった。こんなに良いのであれば歯並びを直したいということで、マウスピース矯正で部分的に直した。使ったのはアソアライナーという日本製のマウスピースで、インビザラインに比べて安価で指定されている使用時間も短く、ちょっと大きめなので歯列を広げるのが得意でアタッチメントがいらないので、ちょっとだけ直したい人にはお勧めである。

<治療前>
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<治療後>
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金管楽器に下の前歯は関係あります

プロトロンボーン奏者が来院した。ある歯科医院にメンテナンスで通っていたら、咬合調整しますと言われ前歯を削られてしまったとのこと。行くたびにどんどん削られ、高音域が普通に吹けなくなり、無理に口唇に力を入れてアパチュアを絞めて吹いているということだった。
見ると何本も前歯が削られ短くなり、唇側面も斜めに削られている所もあった。その歯科医院で咬合調整されたとき、奥で噛むと前歯で咬合紙が抜けてしまい噛まなくなってしまったそうだ。
そちらの歯科医師はご自分もトロンボーンを演奏していて管楽器歯科を名乗り、「金管楽器に下の前歯は関係ない」と言われたという。

まず、下の前歯3本(21|1)の元の歯の形を想定してレジンで戻し、高音域が普通に吹けるようになったが、切端位で下顎がブルブル震える。次に右上の前歯(1|)に削られた形跡があるのでレジンを盛ったところ、切端位で安定した。切端位を取れることは金管楽器には重要なのだ。下顎が左にずれており、右へ動かしにくい状況で、それは右側の犬歯のガイドがないからと考え、削られている右下犬歯(3|)にレジンを盛り、良くなった。

なぜ金管楽器に下の前歯は関係ないと思ったのだろう。アマチュア奏者での歯の治療をした経験からだろうか。何の目的で前歯を削ったのかも謎だが、下顎の右側への側方運動時に前歯が当たるので削ったのかと想像する。それなら若い頃に削ったと思われる右下犬歯にレジンを盛ってガイドさせるべきだったと思う。いずれにしても一流奏者の前歯を、本人が望まないのに削るなんて信じられない。

当院初診時(奥で咬んだところと少し前歯を開けたところ)

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処置後

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世の中にはいろいろな考えをお持ちの歯科医師がいるので、歯を削られそうになったらよく相談し、気をつけて治療を受けてください。

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咬み合わせが変わったのでアダプターを作り直した

10年以上当院製のアダプターを使用しているプロホルン奏者(過去に何度かこのブログで紹介)が来院しました。最近特に低音域が安定しないということです。

3年位前にしばらくホルンを吹かなかったためアダプターが合わなくなって新しくしたのだけど、その後厚い方がいいような気がして、調整した古いものを使っているのだそう。低音域がうまく吹けなくなった原因は何だろうかと、模型をよくよく見比べると、何と開咬だった前歯の咬み合わせがほぼ直っていたのです。歯並びの変化としては上の左右1番が舌側に入っている。
開咬は直した方がよいとは思ったのだけど現役音大生からそのままプロ奏者になってしまい、ずっとアダプターで開咬を補正して吹いていたのです。開咬が直ったのに、厚いアダプターを使っていたので、下唇を密接させることが難しかったのと、下顎を前に出せなかったので、低音域が不安定になったと思われます。新しい咬み合わせに合わせてアダプターを作り直しました。以前の物より半分以下の厚さだと思います。

子供の場合、矯正器具を付けなくてもトレーニングや呼吸の改善で直ることはありますが、成人の場合でも、直ることもあるのですね!特にトレーニングを当院ではやっていませんでしたが、数年前に扁桃腺の手術をしたということで、呼吸と舌位が良くなったからと考えられます。

12年前(前後的に開咬になっていて厚いアダプターを使用)

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現在(開咬が改善し薄いアダプターを使用)

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歯並びや咬み合わせは大人になっても変わることがあるというお話しでした。 

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目指す治療ゴールはいろいろ(2)

横顔の数値で一般的なのは鼻とアゴの先を結んだライン(E-line)に対して、口唇の位置が理想的には上唇が1mm内側、下唇が線上であり、通常それを目指すのだけど、オトガイが小さければラインが後ろに来るので、歯を必要以上に内側に入れないと達成できない。

E-lineからの口唇の位置はそこそこに、楽に口唇閉鎖できることを目指し、楽器演奏を考慮して治療した例をお見せします。患者さんはプロのオーボエ奏者。普通に仕事しながら矯正治療を受けていただきました。

治療前

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治療後

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治療前後の口元の変化

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・E-lineから口唇が少しだけ前に出ています。さらに抜歯をすれば下げることは可能だったかもしれませんが、オトガイが後退しているので、口元のバランスとしてはこの方がむしろよいように思います。

・抜歯は上の小臼歯左右1本ずつのみとし、上の親知らずは抜かずにコントロールしました。矯正歯科医は親知らずを無条件で抜歯してしまう人が多いのですが、萌出している上の親知らずを抜歯した後にアンブシュアに影響が出て不調になる管楽器奏者がいますし。

・前歯の被蓋は少々浅めになりました。理想的には2mmくらい被るように直すのですが、これ以上深くするためには前歯を挺出させる必要があり、鼻の下が長くなるとアンブシュアに悪影響の可能性があるため、浅めで終わりにしました。

 

こんな感じで私は管楽器奏者に対して配慮した治療方針を考えています。演奏の邪魔にならぬようメタルの小さいブラケットを使ったり、最初半年前歯に装置を付けずに犬歯を引いたり、治療方法にも配慮しています。管楽器奏者の方のほとんどにMFTもしています。

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目指す治療ゴールはいろいろ

矯正歯科医によって目指す治療ゴールはいろいろである。残念ながら。

プロ・クラリネット奏者が相談に来た。他院にて、小臼歯を4本抜歯して唇側ブラケット装置を付けての本格的な矯正治療を行っており、もうすぐ終了と言われたが、今吹きにくいのはどうなるのだろうと心配になったとのこと。前歯が咬んでいないということもあるが、上下の前歯が立っていて標準値よりも20~30度くらい内側を向いている。これは吹きにくいだろうなと思った。
いろいろ話をして主治医と相談してもらうことになった。もし当院で引き継いでとなると前歯を唇側に出してスペースを残すことになるだろう。結局治療元で少々の調整をして器具を外したのだと思う。一度スッキリしていただき、その後何かあれば考えるということで。
矯正治療をする際には分析(セファロ分析といって骨格や歯の角度・位置などを数字にする)をして治療方針を決めるのだが、骨格は手術でもしない限り変えられないので、すべての数値を標準値にすることは難しい。この人は小さい下顎とオトガイなのに、横顔の数値を標準値にするために前歯の角度が犠牲になってしまった。その主治医はとにかく横顔のラインを主眼に治療をしたのだろう。私だったら歯の位置を標準にして、オトガイが小さいから横顔のラインはそこそこに楽に口唇閉鎖できることを目指しただろうな。

フルートを勉強している音大生が相談に来た。他院にて、非抜歯で下顎歯列のみの矯正治療を行っていた。上顎歯列はノータッチで下のみブラケット装置だけというのは吹きにくい。下の叢生を改善するために広げて下顎の前歯が唇側に傾斜して、さらに吹きにくかったと思う。いろいろ話をして当院で治療を行うことになった。上下小臼歯を抜歯して、普通に上下唇側ブラケット装置を付けて治療をしている。
世の中には「歯を抜かずに直す」ことを重要視する歯科医が割と多い。本来抜歯のケースを無理に抜かずに直すと、歯は前に傾斜しかみ合わせが浅くなり口唇が閉じにくくなる。多くは楽器が吹きにくくなるが、その歯科医にとっては抜かずに済んだということが大事なのだ。

どの歯科医院でも歯並びを治療すれば吹きやすくなるとは限らないのでご注意ください。

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