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November 2019

November 16, 2019

ジストニアの予防

少し前になるが「第9回日本音楽家医学研究会」に行ってきた。といっても新響の練習と被ったので最後の一演題のみ聞きました。「逆説的にジストニアから学ぶ、ゆるくても効率的な奏法・練習法」という、ピアニストにして神経内科医の方のお話でした。
ジストニアが起こる機序を神経内科的にわかりやすく説明され、投薬やボトックスといった治療よりも装具や楽器の工夫の方が改善を見込め、普通に練習をした方が自覚改善度が高いこと。近年大脳基底核の凝固術が行われているが良い成果が上がることは少ない。一度なってしまうと決定的な治療法もなく治癒が難しいので、予防が大切でありどういった練習の仕方をすればよいか・・・ピアニストとして若い時にコンクール入賞や一流ホールでのリサイタルを行い、卒業後は医学に専念するも、現在は医師として働きながら演奏活動を行っているという音楽家の言葉はとても説得力があった。

ジストニアは大脳基底核の機能障害である。運動は感覚入力によって表現されるが、感覚野のマッピングが重なってしまい、近くの神経や似たような動作が抑制されなくなるという現象らしい(間違っていたらすみません)。
予防としては、overuseをしないこと、特に痛みがあるときに無理に練習しない。長時間の反復練習をしない。イメージトレーニングを活用する。運指の固定や曲の理解によって練習の無駄を省く。使う筋、使わない筋を選択し、個々の筋について使う・休む時を考える。感覚入力を意識する、すなわち音を聴く・筋肉関節の状態を感じ取る。

ピアニストの手のジストニアの予防のための話であるが、管楽器にも当てはまると思う。よく聴きよく考えて練習することは、当たり前のようで、神経内科的見地からも大切である。

管楽器のジストニアについての記事はこちら(2017年)

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November 15, 2019

金管楽器の熱処理

熱処理をして金管楽器を調律するのがSNSで話題になっている。金管楽器調律という仕事を立ち上げたWさんは面識があるのだけど、私はまだお願いしていない。

私は、Wさんがこのお仕事をしていることを知る少し前に、自分の古い楽器の熱処理を試みた。楽器のテーパーを整えて調律する元アトリエHのIさんに20年ほど前に調律をお願いしたことがある楽器で、Iさんは音程が良くなれば見た目はどうでもよいという考えなので少々ボコボコしており、今年初め別の修理の方に綺麗にしてもらったのだが、鳴りが変わってしまい、おそらく凹出し作業で金属が硬化したのではないかと考えたので、診療で使っているバーナーで炙ってみようかと思ったのだ。歯科治療というのは金属を使う仕事なので、大学では金属の結晶構造だとか一通り講義があるし、バーナーの炎の温度など試験に出てきたりした。なのでほんの少々の金属の知識はある。

その話を先生にしたところ、炙ると楽器が良く鳴ることは昔からドイツでは言われており、同僚がホルンをストーブの上に乗せたところ、帰ってきたら楽器がバラバラになっていた(!)そうだ。Iさんに聞いたところ、ちょうどIさんも熱処理にハマっており、素人でもできる方法やコツを教えていただき、熱処理向きのドライヤーと温度計を購入、ちょっとやってみた。結局楽器は放っておいたのだけど、数か月して先生が吹いた後に私が吹いてみたらとても良い音がした。熱処理の成果か先生が吹いたからかはわからない。Iさんによれば、上手な人が吹くと楽器が良く鳴るようになるのと熱処理は同じ効果なんだそうだ。

炙ると楽器が良くなるというのはどういうことかというと、金属に溜まったストレスを熱処理で取る、つまり「応力除去焼きなまし」をすることによって楽器の振動が均一になるということなのだと思う。調べると金管楽器に使われる黄銅(銅7亜鉛3)の焼きなまし温度は200~230度。一般的な半田の融点が183度(最近の鉛フリーの半田は217度)で液体化する温度はもう少し高い。Iさんによればバーナーは危険なので温度設定できるオーブンかドライヤーがよいということ。最近まで使っていた楽器をオーバーホールに出す予定なので、その後やってみようと思います。

Wさんの熱処理は企業秘密なんだろうけど、多くの皆様のSNS投稿から察すると、問題のある個所にのみバーナーで炙る手法。素人の私は全体を熱すればよいのではと思うのだが、もっと高温で違う効果を狙っているのかはよくわかりません。

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November 12, 2019

くちびるのケア

金管楽器を吹く人には、リップクリーム塗る派と塗らない派があると思う。私は塗らない派である。普段から基本何も塗らないし荒れない。

私は元々唇が痛くなることはないし、奏法見直して口の周囲の筋肉がバテることもなくなったし、吹き過ぎると痛くなった首や背中もコントロールできるようになったが、しかしここ数年気になってきたのが、唇がツルツルというかテロテロというか一皮剥けたに感じになること。前日のリハからずっと吹いていると本番の時にいつもと違う感じになってしまい、不安になってリップクリーム塗るとさらに違和感でなんか調子が悪くなる。きっと齢のせいだ、新陳代謝の低下か。

くちびる(ここでは赤唇部といって表側の赤い部分のことを書きます。通常口唇は口裂上下の動く部分をいいます。)は、皮膚と粘膜の移行部であり、その中間的な性格を持っている。粘膜と違って角質層はあるが皮膚と比べて角質層が薄く、皮膚と違って汗腺や皮脂腺がない。ターンオーバーとは表皮の細胞が生まれ変わるサイクルであるが、皮膚では4週間のところ、くちびるは1週間ほどである。
楽器演奏の刺激で角質が剥離して表皮の新生が追い付かないという状態なのかと思う。そこで、くちびる専用美容液を使ってみている。といってもたまにではあるが、使うようになって今のところツルツルテロテロで困ることはなくなった。

これは宣伝になってしまうのだが、私が加盟しているホワイトエッセンスでは自社ブランドのリップ美容液を3種類出していて、理想的には3つとも使うといいのだろうけど、私はそのうちのコラーゲン生成を促進するものを使用している。もし試してみたいということであれば「ホットリップエステ」というメニューがあって、マッサージしつつ3つの美容液を効果的に作用させるので、ターンオーバーに合わせて1週間ごとに1か月くらい続けて受けてもらうと、かなりくちびるのコンディションは良くなると思う。
リップクリームは物によっていろいろな成分が入っていて期待できる効果もそれぞれなのだろうけど、基本的には保湿が目的である。くちびるは汗腺や皮脂腺がないので乾燥しやすいから。しかし、くちびるが荒れている人やリップクリームが手放せない人の多くは、いつも口を開けているかくちびるを舐める癖がある。くちびるのコンディションを良くするためにも、もし口呼吸をしているようであれば改善すべきである。

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November 05, 2019

咬み合わせと聴力

少し前の話になるが、「オージオバイトチェッカー」のデモンストレーションをしてもらった。簡単に説明すると、聴力を調べることで咬み合わせをチェックすることができるというシステムである。私にお金が余っていれば導入したかもしれないが、咬み合わせのチェックは直接歯を見てできるし、場合によっては普通の聴力検査機を買えばよい。またの機会にすることにした。

左右それぞれ7つの音の高さについて、小さい音から段々大きくしていって、聞こえ始める一番小さな音の大きさを記録する。各音の高さで水平になっていれば咬み合わせのバランスが良い。音の高さそれぞれに歯の位置に相当し、高音域ほど前歯、低音域ほど後方の臼歯の状態をあらわし、良く聞こえない部分は強く噛み過ぎ、過敏な部分は噛んでいないという判定となる。
例えば高音域が聞こえが悪ければ前歯に噛み癖があり、低音域の聞こえが悪ければ臼歯が強く当たっているということになる。左右差があれば片噛みの癖がある。じゃあ噛んでなければ良いかということではなくバランスが重要なのだそうだ。咬合状態は見ればわかるものであるが、この検査は動的な咬合(噛み癖)を判定するということである。

聴力に影響することはおそらく多くの要素があり、聴力検査結果が必ずしも咬合状態とイコールではないとは思うが、相関関係はあるのだろう(いくつかの科学的根拠があるようだ)。
音楽家にとって聴力はとても大切なことだ。突発性難聴で休業するプロ奏者も少なくはない。中には咬み合わせの問題が関連していることもあるかもしれない。前々から私は管楽器演奏時の顎位や姿勢によって聴力の問題が出ることもあるのではないかと思っていたが、おそらくこれと関連があるのではないかと思う。歯ぎしりで突発性難聴になるというのもそういうことであろう。
咬合状態だけでなく、無理のない顎位で演奏することと、舌を挙上して口の広さ保ち歯ぎしりなどしないようにすることが、聴力を悪くしないポイントの一つかもしれない。

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November 04, 2019

前歯の治療を甘く見てはいけない

金管楽器を演奏している人は前歯の治療には慎重になることが多い。多くの場合は普通に治療をすれば、多少吹きにくい時期はあったとしてもアンブシュアが適応してそのうち吹けるようになる。歯の形や位置には理由があるから、そうは違わない歯の形になることが多いからだと思う。しかしその変化に適応できず、中には納得いく演奏ができずに悩む人もあるだろう。
だから可能な限り最小の変化での治療をし、全体を補うのであれば以前の歯型に近づける(仮歯の時点で試奏して形を決めそれを元に補綴物を作る)、場合によっては折れた歯をそのまま戻すなどの工夫をする。

3年前にアマチュアのトランペット奏者に折れた上顎中切歯を戻した話を書いた( 「折れた歯を戻す その2」)。ほぼ同じ歯の状態に戻したのだから、楽器持参ではなかったが問題なく吹けたはずだ。しかしながらツギハギの歯だったので、最終的には全体を被せた方が良いと話したのだと思う。
それが欠けてしまい他院にて治療中だが全く吹けなくなった、明日本番なので何とかしてほしいと来院された。見ると仮歯(レジン冠)の代わりにデュラシールというレジン系仮封材を丸めて両隣の歯にとめてあった。短いし膨らんでいるのでそれは吹けないだろう。きちんとした仮歯を入れない医院もあるのだ。
10日後には新しい冠が入るというので、デュラシールの膨らんでいる部分のみ削り充填用のレジンを盛り足した。私が思う金管楽器が吹きやすい形態にし試奏して問題ないというので終わりにしたが、家に帰って吹くと吹けないという。そこで3年前の写真を参考に歯を斜めにして内側を削り吹けるようになった。 前回は治療後問題なく吹けたからといって、なぜ本番直前にしかも他院で治療を受けたのか・・・。

3年前の治療後の写真(今回の写真はないです)
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まず言えるのは本番直前の前歯の治療はリスキーであること。通常は普通の歯の形、歯並びにすれば、慣れるのに時間がかかるかもしれないが、吹くことは可能である。しかし、この人のような歯が捻転していて息の通り道ができている人は、それが塞がってしまうと吹奏感が大きく変わるので、どうするかはよく相談した方がよい。

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November 03, 2019

金管楽器と舌小帯

舌小帯というのは舌の下にある口腔底と舌を結ぶ膜というか紐のようなもので、誰にでもある。「舌小帯が短い」ことを舌小帯短縮症あるいは舌小帯強直症という。昔は乳児で舌小帯が短いとうまく母乳を飲めないので簡単に切っていたし、その後も発音障害の改善の妨げになるので、舌を出して中央が凹むハート形になる、目安としては舌を口蓋に吸い付けた時の開口量が最大開口量の1/2以下なら切るとよいとされていた。 舌小帯が短いこと自体は歯列不正の原因にはならず、舌の機能的な問題があると短くなるように思う。だから、舌小帯切除術はあまりおこなわれない傾向になってきた。

舌小帯が短ければ舌が前方に突出する癖もないし、舌小帯が短くても安静時に舌を口蓋に付けることは可能であるが、以前にも紹介した筋機能療法のレッスンを行うのは難しい。短い舌小帯を切る手術自体はとても簡単で、よく芸能人が滑舌をよくするために大手術をしたみたいな記事になっているけれど、ちょっと麻酔してちょっと切るだけ。当院ではレーザーを使うので縫う必要もない。歯列には影響がなくても舌の動きに問題があれば切ることを考えてはどうかと私は思う。(切る前後に舌を挙上するトレーニングを必ず行ってください。)

管楽器演奏の場合、タンギングに少なからず影響が出ることがあるはずだ。しかし舌小帯の短い人にはタンギングが出来ない(遅い、汚い)自覚症状はあまりないようだ。なぜなら、舌小帯の短いままキレイなタンギングができるアンブシュア、つまり舌の可動域が狭くても大丈夫なように口を狭く(顎を閉じて)吹いているのだと思う。

金管楽器ではもう一つ問題がある。音域によるアンブシュアの変化の重要ポイントに、高音域ほど舌の後方部を挙上する、低音域ほど下顎前歯の後方に空間を作ることがある。いずれも舌の可動域が大きくないと難しい。

つまり舌小帯の短い金管楽器奏者の特徴として、少々横に引き気味のアンブシュアで、場合によっては音が揺れる、特に高音域・低音域で大音量が難しいことが予想される。過去に当院で切った人の治療前の演奏時のレントゲンを見ると歯の開きはとても狭く、切ると高音域が楽に出るようになったという感想をいただいた。

こちらは2011年9月の記事で紹介した音域による下顎と舌および舌骨の変化。当時の芸大生(ホルン)のものである。先生によればまだ改善の余地があるということであったが、典型的な舌の動きであると思うので参考にしてください。

 

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