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March 2017

March 03, 2017

エナメル質形成不全

エナメル質形成不全というのは、歯が萌える前から歯の表面のエナメル質が一部なかったり薄かったりすることである。一部が凹んでいたり茶色かったりする。臼歯に多いような気がするが、前歯でも起こる。
管楽器演奏にどう影響があるかであるが、管楽器を始めた時からその形をしていて奏法が確立するのだから、まあ困ることはないと思う。しかしながら、見た目が悪いので治療して歯の形が変わったり、エナメル質が薄いので経年的に歯が欠けたりすることで影響が出ることはあるだろう。

この方はホルンを吹いているのだが、上の前歯2本がエナメル質形成不全で、唇側面に凹凸があり(ご本人によれば洗濯板の様であった)切端部も欠けている状態である。6年くらい前から見た目が気になり、他の歯科医院にてレジンによる治療を受けているが、半年に1度くらい外れて、その度にやり直してもらっているのだそう。
そのレジンが上唇にひっかかってスラーがうまくできない、高音域で上唇が痛いといった不具合があるということであった。
最初の日は時間がなかったので、とりあえず充填されている盛り上がったレジンを平らに整えたのだけど、それだけでもすごく吹きやすくなったとのこと。切端が短くガタガタになっているので、調整するともっと吹きやすくなりますよと提案し、後日形態の調整を行った。
歯の長さについては、切端位(下顎を少し前に出した位置)をとると犬歯が当たって中切歯は隙間がある状態だったので、少し長くしアンテリアガイダンスがバランスよくできるくらいに整えた。
それで随分良くなって吹きやすくなった様子。最初の印象では低音域が得意で高音域は苦手かと思ったら、元々上吹きということで、歯の長さが戻って息が絞れるようになり高音域が吹きやすくなったのだろう。
でももっとよくなると思い、厚さを調整した。中切歯2本の唇側エナメル質が薄いために、切端位で少々下の前歯が前に出るので、特に中切歯の近心部分を厚くして、切端位で上下のバランスが良くなるようにした。
そうしたら、予想通りではあるのだけど、予想以上に音色が良くなり(こう言っては何だが最初は間の抜けた音色だった)、何というか艶が出て、元々ポテンシャルのある人だったのだなと感心した。ご本人も一吹きしただけで吹きやすさを実感したようでした。

1703031  1703032
初診時    →    歯の形態調整後(ともに咬合位)


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March 02, 2017

管楽器奏者のジストニア(4)

管楽器奏者のジストニアとして一般的なのは、木管楽器のフィンガリングに関わるものと、金管楽器の口唇に関わるものではないかと思う。

少し前になるが、プロのクラリネット奏者が来院された。右手の薬指・小指の動きが悪くジストニアと診断されたが、ジストニアになったのは他の歯科医院で作製したアダプターが原因と考えているので、当院にてアダプターを新調したいということであった。
だったらアダプターの使用を中止すればよいのにと思ったが、それでは口唇が痛くて吹けないらしい。アダプターによって楽器の向きがずれてしまったために、姿勢や指に負担がかかったのが原因と思っているとのこと。私はどっちかというと、楽器の向きを直すためにアダプターを作ったりするから、そういうのは得意である。
木管楽器の人にとって指が思うように動かないというのは深刻なのだと思う。私などは小指を動かそうとすれば薬指が勝手に一緒に動いてしまうが、特に日常生活にもホルンの演奏にも支障がない。腱が元々癒着しているためと思う。私の友人でもフルートを吹くのに指が思うように動かなくなり、何軒もの整形外科を巡ってようやく腱の問題を指摘され手術をして改善した。たぶん、その辺の鑑別診断はきちんとすべきことなのだと思うが、現実として原因が不明なものがジストニアということなのだろう。


金管楽器について、楽器を吹いているときに口唇がブルブルしたり意思に反して余計な動きをすることは、よくあることで、これを「スランプ」と認識している人は多いのではないだろうか。もしかしたら、この中にもジストニアがあるのかもしれない。口唇を引く筋肉とすぼめる筋肉が同時に収縮するということか。そういう私も過去に大スランプになった。本当にブルブルした、吹けなくなった。
当院に来るスランプな人には特徴があるように思う。大体年齢は40歳前後。中音域が鳴らないが、本人は高音域が出ない方が気になる。多くは横に引きすぎや顎を出し過ぎなどアンブシュアが良くない。
私のスランプも同様で、最初はちょっと調子悪いくらいで自覚がなかった。無理をして吹いてアンブシュアを壊したのだと思った。常に頬が痛かった。おそらく無理のかかる吹き方から身を守るためにブルブルしたのだろう。ジストニアというのは、結局身を守るための防御反応なのだと思う。
私はアンブシュアを一から作り直した。それなりに苦労をし時間もかかったが、良かったと思う。その時ご指導いただいた先生の所には、吹けなくなってしまったプロ奏者が多く駆け込んでいるということだった。結局は奏法を見直すことが根本的な解決法なのだと思う。

つづく・・・かも。

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管楽器奏者のジストニア(3)

では、ジストニアとはどのようにして起きるかである。人間の動作は筋肉の収縮によってされるが、例えばある指を動かすとして、その指を曲げる筋肉と伸ばす筋肉があるように、動作には相反する動作があって、それぞれに働く筋肉が違う。その相反する筋肉が意思に反して同時に収縮してしまうと、硬直して動かなくなるか、痙攣をおこすというわけである。

前回の記事で紹介したクラリネットの人の場合、数年前の吹けない様子を見せてもらった記憶から想像すると、おそらく顎を閉じる筋肉と開ける筋肉が同時に収縮している状態だったのではないかと思う。
下顎の動きを行う筋肉は咀嚼筋と呼ばれ、開口筋と閉口筋からなる。それらのコンビネーションにより下顎は複雑な動きをするわけである。下顎運動は自分の意思で行う随意運動であるが、物を食べる際に口に食べ物が入ってから嚥下までの動作は意識せずに行われる不随意運動(反射)である。主な反射としては、下顎張反射(閉口反射)と開口反射がある。閉口反射は、閉口筋の急激かつ一過性の伸展により生じる閉口の反射。開口反射は、口腔粘膜や口腔周辺の皮膚、歯根膜に刺激が加わることで生じる開口の反射。
私の想像では、クラリネットをくわえる力が侵襲刺激と認識されて開口反射が起き、でもクラリネットを吹こうとする意志はあるので閉口しようとする。つまり、開口筋と閉口筋の収縮が同時に起こってガクガクし吹けなかったのではないかと思うのである。ちなみに開口反射は、閉口筋の抑制と開口筋の促進の両方で起こると考えられているらしい。それまで普通に吹けていたものが吹けなくなったのは、開口反射の原因となる刺激自体が強くなったのか、もしくは閾値が下がったのではないかと思う。

この人の場合、歯の摩耗具合から強いブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)が想像され、一つには前歯が短くなったことで、より演奏時に下顎を閉じる必要が出てきて閉口筋の収縮が過剰になったこと。もう一つは歯の摩耗により歯の刺激に対する閾値が下がったことも原因かもしれない。
話は変わるが、ブラキシズムが起きるのは、この開口反射が睡眠中は抑制されるためらしい。昼間口を開けている人には歯ぎしりをする人が多いというのはそういうことなのであろう。

今回、アダプターでジストニアに対する効果があったとすれば、演奏時の顎位を開いて閉口筋の収縮を抑えられることと、前歯の歯根膜への刺激が軽減されたためではないかと思う。

・参考文献
顔面・口腔領域に誘発される反射の変調について(新潟歯学会誌より)
http://www.dent.niigata-u.ac.jp/nds/journal/302/t302_yamamura.pdf

・口腔領域のジストニアに専門に取り組んでいる先生
京都医療センター歯科口腔外科
https://sites.google.com/site/oromadibulardystonia/

つづく

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