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June 06, 2016

金管楽器奏者の歯の固定

歯周病(歯槽膿漏)の治療の一つに歯を固定することがあります。固定をするには、ワイヤーなり接着剤なり何かを付けるわけで、それが管楽器(特に金管楽器)の演奏に支障を及ぼすことがあります。

先日来院されたのはプロオケ所属のトランペット奏者で、3年ほど前に演奏時に右上の1番(中切歯)がガクッと内側に動いたため、ワイヤーで前歯6本を固定されたところ、吹けなくなったのだそうです。その後、いろいろな歯科医院で固定方法を変更して現在にいたるのですが、アタックが出来ない、空気が溜り息が漏れる、マウスピースがうまく乗らない・・・という状況でした。
上顎の犬歯から犬歯の6本が固定されていました。おそらく最初はワイヤーをそのまま接着したのでしょう。別の歯科医院で舌側の隣接面をくりぬいてワイヤーを埋め込んだ。次の歯科医院ではワイヤーを外して充填用レジンで固定し、演奏時の息漏れを防ぐために鼓形空隙も埋めたのだと思います。その過程で隣接面は削られて行き、ご自分でも吹いて痛い部分の歯を削り、本来の歯の形からかけ離れていったのではないかと思います。

まず、その固定は本当に必要なのか、です。歯周病で歯槽骨がほとんど残っていない保存の難しい歯は固定することがありますが、その歯は亜脱臼して固定をしたのですから、固定は一か月もしたら外すべきだったのではないかと私は思います。おそらくトランペット演奏でかかる力から守る目的で固定を継続したのでしょう。確かに全体的に歯周病に罹患してはいますが、前歯部の歯槽骨吸収は臼歯部ほどではなく、実際固定を外した時点での動揺は大きくありませんでした。むしろレジンが歯肉の炎症を起こし、固定することで歯根膜の血流を阻害し歯周病を悪化させる可能性もあるのではないかと思います。
処置前の上顎前歯部の歯肉の色が病的に白かったのですが、固定を外して歯肉の色も良くなったように感じます。

演奏時のレントゲンを見ると、マウスピースの上下的位置は中央に近く、下唇が巻き込まれているのが特徴です。たまたま私は彼の所属しているオケの演奏会を録画しており、それが歯のトラブルの前の演奏でアンブシュアを確認したところ、マウスピースはかなり下寄りで、下唇はしっかり張られ安定していました。アンブシュアが安定せず混乱している状況ですので、レントゲンから現状を理解するだけでも効果はあったかと思います。

まずは固定された歯をセパレートし、付いているレジンを極力外しました。写真のように見るからに隙歯ですが、この時点で、既に吹きやすくなったのです。それから、本来の歯の形を想像して歯の形を作っていきました。
治療時間の都合と一度に多くの処置をするとわからなくなるため、1回目は中切歯2本を作りました。特に右側は薄くなっており、唇側面にもレジンを盛って厚みを調整しました。この段階でまだ空気がたまる感じがするということで、即席でシリコン印象材で歯肉用アダプターを試してみました。効果がありましたが、吹いているうちになくても大丈夫になってきたようです。

2回目は側切歯2本を作り、前歯4本全体の調整をしました。すべての隣接面がコンタクトするようにし、本来の歯の形にして歯質との段差をなくすようにしたため、鼓形空隙はあえて開けたままです。私は、鼓形空隙自体が息漏れを起こすのではないという考えですが、やはり開けたままでも息漏れや空気の溜りは起こしませんでした。最後は高音域がきついということで歯の切縁の角の形態を調整し良い感じになりました。
歯肉用アダプターについては、歯の形態が確定したら試す予定でいましたが、もしこのまま問題なく演奏できればなくても大丈夫と思います。歯肉&歯槽骨の退縮は経年的なものなので、アンブシュアがすでに適応しているでしょう。

2回目の処置の際には、2年前の歯列模型を持参していただきました。できれば3年前よりも前の模型があればよかったですが、十分に役にたちました。もしものときのために、皆さんも時々歯列模型を作ってもらうことをお勧めします。

当院初診時の前歯の写真
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レジンを外したところ(左)と中切歯2本の形態を回復し歯肉が下がった分をシリコンで補う
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前歯4本の処置終了
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初診時の演奏時レントゲン写真
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