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June 01, 2016

前歯を再現する

前歯が折れて困っているというホルン奏者が来院されました。プロオケで活躍し定年後も教育や演奏活動をされており、今年もいくつか協奏曲のソリストを予定しているということでした。

元々神経の死んでいる歯だったのが硬い物を噛んで折れてしまったとのこと。それで慌てて指導先のアマチュアオケで木管楽器を担当している歯科医に診てもらい、レジンで修復してもらったのだそうです。それが約1か月前。そちらの歯科医院でいろいろしてもらったのだそうですが、どうにもならずに当院に来院されました。
私だったら、その折れた歯を瞬間接着剤でくっつけてしまうのですが、残念ながら前医で捨てられてしまったそうで、もし残っていたとしても、既に歯にレジンが付けられていているので正確な位置に戻すことはできないでしょう。

前医の処置の特徴としては(初診時写真参照)
・継ぎ足したレジンは両隣の歯につなげてある。
・無理に正中を合わそうとして前歯2本の大きさが違っている。
・舌側がくりぬかれて下の歯と当たらないようにしてある。
とても気持ちはわかるし、外れないようにという心遣いなのだと思いますが、両隣とレジンでつなげると、それだけで本来の歯の形と違ってしまいます。

レントゲンを見ると、演奏時の歯の開きが狭いことがわかります。アンブシュアも唇が余ったようになっており、レジンが下の歯と当たらないように薄くしてあるため、息の流れが太くなってしまい、歯を閉じて吹いていると考えられます。

そこで、まずは両隣とセパレートし、おそらく元の歯はこんなだったであろう形を想像して大まかに作り、あとは吹きながらの調整です。幸い20年前の歯列模型をお持ちだったので、ものすごく役に立ちました。ただ、歯が折れて前医で処置をして1か月以上経っているため、アンブシュアも変わって不安定になっている状態で、一度は良いと思った箇所も、やっぱり戻して・・・ということを繰り返し、調整に5回ほどかかりました。

初診当初は柔らかくそれはそれで良い音色でしたが、元々アレキ107をお使いだったことから想像する本来の音とはかけ離れていました。歯の形を戻すことで、華やかで艶のあるおそらく元々の音に近づくことができたと思います。もちろんアンブシュアもピタッとしました。
模型を参考にしても限界があり、後は吹きながらの調整が必要でした。ある程度の歯の形が整ったところで、音の移り変わりがスムーズにいかない箇所を直していきました。これは歯の唇側面の豊隆の具合の調整です。その後、高音域が当たりにくいということでいろいろ試しましたが、最終的には歯の長さの調整(=アンブシュアを作った時の上下の歯の開きが左右対称で均一であること)が効果があったようです。

20年前の模型を見ると、右の1番と2番の間に虫歯の治療時に出来たと思われる隙間があり、もしかしたらそれを再現すると、この方の個性的な音色を取り戻せるのではないかと考えました。しかし、ソリストを務める演奏会まで1か月となり、とりあえずこのままということに。

私が行う金管楽器奏者の歯の調整の基本は、本来の歯の形にすること。つまり、一般的な(解剖学的な)形であること、あるいはその人の元々の歯の形であることが大切だと思っています。

当院初診時の前歯の写真
1606011 1606012

治療後の写真
1606013 1606014

初診時の演奏時レントゲン写真
1606015

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