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July 05, 2015

トランペット奏者が側切歯を抜いたら

この前、私の所属している新響の維持会ニュース(定期会員的なお客様向けの会報)に記事を書いたのですが、一部歯の話を書いたので、ブログの方にも転載します。維持会ニュースの方には個人名にしていますが、こちらでは名前を省きます。(近日中に新響HPに掲載予定。)


管楽器を吹くのに歯は欠かせないものです。歯が無いと吹けないだけではなく、歯の形や歯並びが楽器演奏に大きく関係しています。特にマウスピースの小さい金管楽器(トランペット、ホルン)での影響は大きいです。

今シーズンの指揮者初回練習日のこと、当団首席トランペット氏が前歯の差し歯が駄目になって今回の演奏会は降りて休団すると言っているという話を聞き、私は降板しないよう説得を試みました。聞くと、上顎側切歯(真ん中から2番目)の差し歯が外れてグラグラし、今は接着剤で固定しているが口唇が痛くて吹けないし、抜歯が必要と言われており治療して慣れるのに数カ月はかかるから、ということでした。
1本抜歯した場合、一般的な治療は両隣りの歯を削ってブリッジにするかインプラントということになります。ブリッジの場合、両隣りを含め3本違う歯の形になってしまい、それで吹けなくなる金管奏者も多いと聞きます。かといってインプラントにすればよいわけではなく、インプラントの手術をして歯が入るまでに半年かかるし、歯の形の調整も難しい、失敗率もそれなりにあります。少し前に某プロオケ首席ホルン奏者が前歯をインプラントにし、それが原因で引退したと聞いたことがあります。
一般的な治療とは、どの歯科医師にも出来て時間がかからず結果にあまり差がないもの、特に保険治療は最低限の治療ということになると思います。普通の歯科医院で、抜歯してブリッジかインプラントという提案は至極まともではあります。最近ではMI(侵襲を最小にする)という考え方に基づいた治療をする人も増えてはいますが、治療に個人の技術の差が出やすいし、予防・メンテナンスが重要で、自費診療になるので残念ながら一般的ではありません。
なるべく歯の形を変えず、歯の寿命が短くならず、トランペット演奏を中断しない方法を考え、人工歯を作って両隣りの歯に接着することを提案しました。最小の侵襲です。接着剤で付けるだけなのでブリッジよりも壊れやすいかもしれませんが、その時はまた付ければよいのです。
歯の形については、私は多くの管楽器奏者の歯の治療をするうちにそれなりのノウハウを持っています。アンブシュアや音色、吹き心地を見ながら、人工歯の長さ・下の歯とのバランス・形などを調整していきます。今回どのように調整をしたかというと、

・表面は、まずは抜く前の差し歯と同じくらいで作ってみましたが、本来はもっと内側だったというので変えたところ、その方が吹きやすいとのこと。
・調整の途中「低音がうまく出ない」という状況になった。歯が短かったために口唇を横に引き気味のアンブシュアとなったためで、長くすることで解決。
・抜歯直後だったので内側の形をわざと薄く作ったところ、息の入り具合に違和感があるとのことで、普通の形にしました。内側の形も重要なのです。
・歯の角の形で音色を重くしたり明るくしたり変化させることが出来るので、最後の仕上げに希望を聞いたところ「可能な限り重く」とのこと。そのようにさせていただきました。

こうして歯の形が決まり、表に接着剤が出ないよう最小面積で接着をしました。小一時間の処置の結果、彼は歯のために一度も練習を欠席することなく、無事今回のマーラー4番に出演となりました。

(以上引用)

注:当団首席トランペット奏者は68歳にして現役プレーヤー。こういっては何だが達人ぞろいの当団の中でも、一人次元の違うスゴイ音を出す名人です。

つづく・・・

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