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July 2015

July 07, 2015

トランペット奏者が側切歯を抜いたら(2)

このお話は続きがあるのですが、その前に「差し歯」について少々ご説明したいと思います。

「差し歯」というと前歯の補綴物全般の一般名称のように使われたりもしますが、専門用語で「歯冠継続歯(ポストクラウン)」のことをいいます。歯冠をスパッと削り取って歯根のみ残し、歯根の中に柱(ポスト)を入れるための穴をあけて、柱と歯冠が一体となった補綴物を差し込むわけです。
この治療方法は、私が学生だった約30年前には既に推奨される治療ではなく、やり方を教わることもありませんでした。しかし当時は保険点数が認められていました。前歯の治療は、レジン充填もしくは前装冠あるいはジャケット冠ということになりますが、当時やっと光重合のレジン充填剤が出始めたばかりだし、前装冠・ジャケット冠は保険適応ではなかったので、「差し歯」が一般的な治療だったのだと思います。(現在は前歯のレジン前装冠・ジャケット冠は保険適応になっています。)
歯質が十分に残っていてもそれをすべて削ってしまうわけですし、構造上適合が悪くことが多く、外れたり歯根が2次齲蝕になりやすい。また、歯根に楔状に力がかかるので歯根破折を起こしやすいのです。つまり抜歯になってしまうリスクが高いということになります。

現在は保険から外れているのでこの方法は行われていませんし、若い世代の口にはあまりないのではないかと思います。しかし、熟年層の管楽器奏者がトラブルを起こしやすいのが、昔治療した「差し歯」ということになります。

当団首席トランペットのおじさんは、差し歯が壊れて直したときに、以前よりも前に出たと言っていました。彼は同級生のやはり現役アマオケトランペット奏者を連れてきたのですが、同じように上顎側切歯の差し歯が一度外れて、付け直したら楽器が鳴らなくなったというのです。よく話を聞くと、以前よりも前に出ているようだということで、本来の位置と思われるところで付け直したところ、無事音が出るようになったのです。
差し歯が外れて再接着をする場合、歯科医師は差し歯を少し前方にずらして付けてしまうのではないかと思うのです。それは単に差し歯が緩いため接着剤の硬化待ちの間に綿を噛んでもらう時にずれたのかもしれないし、差し歯に咬合力がかからぬようわざとずらして付けたのかもしれない。それはわかりません。
金管楽器にとっては前にずれるというのは口唇の痛みにつながるし、それを避けるためにアンブシュアが崩れてしまうことにもなります。
また、お二人とも歯根の前側部分が破折していました。これは、差し歯がずれたことで楔状の力の方向が変わって破折につながったと想像できます。

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July 05, 2015

トランペット奏者が側切歯を抜いたら

この前、私の所属している新響の維持会ニュース(定期会員的なお客様向けの会報)に記事を書いたのですが、一部歯の話を書いたので、ブログの方にも転載します。維持会ニュースの方には個人名にしていますが、こちらでは名前を省きます。(近日中に新響HPに掲載予定。)


管楽器を吹くのに歯は欠かせないものです。歯が無いと吹けないだけではなく、歯の形や歯並びが楽器演奏に大きく関係しています。特にマウスピースの小さい金管楽器(トランペット、ホルン)での影響は大きいです。

今シーズンの指揮者初回練習日のこと、当団首席トランペット氏が前歯の差し歯が駄目になって今回の演奏会は降りて休団すると言っているという話を聞き、私は降板しないよう説得を試みました。聞くと、上顎側切歯(真ん中から2番目)の差し歯が外れてグラグラし、今は接着剤で固定しているが口唇が痛くて吹けないし、抜歯が必要と言われており治療して慣れるのに数カ月はかかるから、ということでした。
1本抜歯した場合、一般的な治療は両隣りの歯を削ってブリッジにするかインプラントということになります。ブリッジの場合、両隣りを含め3本違う歯の形になってしまい、それで吹けなくなる金管奏者も多いと聞きます。かといってインプラントにすればよいわけではなく、インプラントの手術をして歯が入るまでに半年かかるし、歯の形の調整も難しい、失敗率もそれなりにあります。少し前に某プロオケ首席ホルン奏者が前歯をインプラントにし、それが原因で引退したと聞いたことがあります。
一般的な治療とは、どの歯科医師にも出来て時間がかからず結果にあまり差がないもの、特に保険治療は最低限の治療ということになると思います。普通の歯科医院で、抜歯してブリッジかインプラントという提案は至極まともではあります。最近ではMI(侵襲を最小にする)という考え方に基づいた治療をする人も増えてはいますが、治療に個人の技術の差が出やすいし、予防・メンテナンスが重要で、自費診療になるので残念ながら一般的ではありません。
なるべく歯の形を変えず、歯の寿命が短くならず、トランペット演奏を中断しない方法を考え、人工歯を作って両隣りの歯に接着することを提案しました。最小の侵襲です。接着剤で付けるだけなのでブリッジよりも壊れやすいかもしれませんが、その時はまた付ければよいのです。
歯の形については、私は多くの管楽器奏者の歯の治療をするうちにそれなりのノウハウを持っています。アンブシュアや音色、吹き心地を見ながら、人工歯の長さ・下の歯とのバランス・形などを調整していきます。今回どのように調整をしたかというと、

・表面は、まずは抜く前の差し歯と同じくらいで作ってみましたが、本来はもっと内側だったというので変えたところ、その方が吹きやすいとのこと。
・調整の途中「低音がうまく出ない」という状況になった。歯が短かったために口唇を横に引き気味のアンブシュアとなったためで、長くすることで解決。
・抜歯直後だったので内側の形をわざと薄く作ったところ、息の入り具合に違和感があるとのことで、普通の形にしました。内側の形も重要なのです。
・歯の角の形で音色を重くしたり明るくしたり変化させることが出来るので、最後の仕上げに希望を聞いたところ「可能な限り重く」とのこと。そのようにさせていただきました。

こうして歯の形が決まり、表に接着剤が出ないよう最小面積で接着をしました。小一時間の処置の結果、彼は歯のために一度も練習を欠席することなく、無事今回のマーラー4番に出演となりました。

(以上引用)

注:当団首席トランペット奏者は68歳にして現役プレーヤー。こういっては何だが達人ぞろいの当団の中でも、一人次元の違うスゴイ音を出す名人です。

つづく・・・

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July 03, 2015

「歯と管楽器の関係」の常識?

先日、日本成人矯正歯科学会大会に行ってきました。その中で、「吹奏楽器の演奏に際して留意すべき歯科的問題点」という一時間の講演がありました。内容は、どのように体を使って音が出るのかを中心に、あまり管楽器のことを知らない人にもわかるように話されていました。
抄録に「顔面形態、不正咬合の状態から、身体にあった楽器の選択方法や、演奏中に生じる種々の支障への対処方法についてもふれてみたい。」とあり、どのような話をされるのだあろうかと思って聞いておりました。私は、歯科医の立場で楽器選択のアドヴァイスをすることに反対なのであります。講演では、これについては
「金管楽器は上下に叢生があるとバテて吹けない、シングルリードは下に叢生があるとバテて吹けない、ダブルリードとフルートは叢生があっても関係ない。」
といったざっくりとした話にとどまっていて、まあよかったです。もちろん私はそのようには考えていません。以前には、楽器演奏により歯が移動するから、それを利用するという立場から楽器を選択すべき(例えば上顎前突を直すためにトランペットを、反対咬合を直すためにクラリネットを)などということをいう論文もあり、こういった話であれば手を挙げてでも大反対するところです。
他には、咬合によって楽器の向きが決まるとか、口の真ん中に楽器(マウスピース)を当てて吹くべきといった話がありましたが、それについても私はおかしいと思っております。しかし、歯科業界の中では常識なのよね。いつかこの変な「歯と管楽器の関係」の常識を、大否定したいです。

管楽器は奥歯で咬んで演奏をするのではないし、下顎は三次元的に動く。同じ人物でもいろいろな楽器の向きで演奏が可能なのであります。受け口気味の人と上顎前突の人がほぼ同じ楽器の向きで吹いていたりする。楽器の向きは咬合でなく、どっちかというと歯の傾きの方が少々影響があるように思うけど、どういう音を出したいかで決まるんじゃないかな。
特に金管楽器の場合、口の真ん中にマウスピースを当てたんじゃ良い音がしない。どんな歯並びが良くて上手な人でも、必ずどっちかにずれている。それは上唇の形の関係でアパチュアが左右どちらかに少々ずれる必要があるから。フルートも同様。
歯並び良くても少々どころでなくかなりずらして吹いている人もいる。それは、唇の厚さと求める音色の関係で、薄い部分で吹きたくて敢えてずらすのだと思う。

講演を聴いていた矯正歯科関係の皆様の本当に聞きたいであろう話(=管楽器を吹いている患者さんへの対処方法)には一切触れられていませんでした。「子供の時期に、虫歯や歯磨きだけでなく、姿勢を良くすることが大切」というお話でしたが、それって管楽器関係なく良い歯並び・咬合にするために大切なことであります。

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