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August 11, 2014

歯の呪縛から解き放つ

半年くらい前になるのですが、地方の音大を卒業して東京でプロを目指しているトランペット奏者が来院しました。その音大のある地域には、管楽器歯科を標榜し私と同じように管楽器奏者のための治療を行っている歯科医院があるようです。彼は元々そう悪くはない歯並びなのですが、ほんのちょっとした1mmほどの前歯の段差を気にして治療を受けていたそうで、大学3年頃の1年間は歯の治療に費やしてしまい楽器の勉強どころではなかったということでした。具体的には上の前歯(1番)1本の辺縁を削り、下の前歯(2番)1本の唇側全体にレジンを盛って段差をなくしたのですが、上の方はその後レジンで元に戻したそうです。

私の診療室に来た目的は、上の前歯のレジンが劣化したので修正したいということ。今までのレジンをほぼ落とし、反対側の1番を参考に本来こうだったであろう形態にし、吹奏感を確認しながら細かい調整を行った。下の2番のレジンを盛ったところが歯肉炎になっており、常時炎症状態と思われたのでそれを外すことを提案したのだけれど、どうしても必要ということでそのままにしました。

そして最近再来院した目的は、下の2番のレジンをさらに盛りたいということでした。もしこれ以上盛れないのならアダプターにしたいとのこと。中音域の一部の音域で口唇の振動が止まってしまうのだそうです。吹いてみてもらうと、奏法自体に問題がありました。今時珍しいのですが口を横に引いてコントロール、つまり高音に行くほど横に引いていました。今まで誰にも指摘されなかったか聞くと、言われたことはあるとのこと。それを歯の問題ととらえていたのでしょう。下のレジンがないと30分以上吹けないということでしたが、1mmほどの段差のせいで吹けない奏法の方が問題です。体格も顎の骨格も口唇も歯並びもトランペットを吹くのに恵まれていたので、今までそれなりに上手に吹けていたのでしょう。
盛るにしても一度外してどのくらいが適当か試したいと言ってレジンを削り、本来の歯に戻して吹いてみてもらいました。音質としては良くなり響きが豊かになった感じ。ほら、レジンがない方がよいでしょう?それよりもその吹き方を真剣に直した方がよいです、基本は練習の仕方ですとお話しして終わりにしました。

おそらく全国に管楽器歯科としていろいろなことをやっておられる歯科医は大勢いらっしゃるのだと思いますが、歯並びはつるっとしていればよいものではないし、本当に歯が問題なのか判断できることが大切だと思うのです。
そのためには、どのように音が出て音色が決まり、どのようにコントロールするのかを知る努力をし、それがどう歯や咬合と関わっているのかを考えたうえで治療をしていきたい。最終的には「歯を意識せずに吹けるようにすること」が私の仕事であると考えています。

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