« 歯茎用アダプター | Main | 金管楽器演奏時の前歯の痛み »

August 11, 2010

「管楽器歯科」について考えてみた

私はこんなサイトをやってますが、自分の診療室には「管楽器」というキーワードを置いていません。看板表示や受付の掲示物にもありませんし、電話応対でも相手から楽器のことを言うまではこちらから聞くことはせず、ホームページのトップにも書きません(「その他」のページにこそっとちょっと載せてます)。唯一新響のプログラムに広告を載せていますがオケに寄付をしているつもりでして、表向きはあくまでも普通の矯正歯科医院のフリをしています。

最近勤務医をしている卒業4年目の歯科医師の方から「管楽器歯科」の見学に来たいというメールをいただきました。根本先生の『すべての管楽器奏者へ』を読んで歯科医師を志したのだそうです。
私は(話すと長くなるのでやめますが)成り行きで歯学部に入り、卒業後の進路を考えるにあたり矯正歯科に興味があり、プラスαで管楽器を吹くのに歯並びが良い方がいいはずだと考えて矯正歯科の道に進みました。その本が出たのは私が歯科医師になった頃だと思います。最初はよくわからないながらもちょっと変だと思い、ここはおかしいと手紙を書き(金管楽器の角度が咬合の深さによって決定するというが、なわけないだろと思った)見学に行きたいと添えて著者に出したこともありました(何の反応もありませんでしたが)。
管楽器奏者相手の歯科として成り立つのかどうかもわからず、とりあえずそういう悩みのある人が通院してきやすいようにと都心で開業をしました。そうしていろいろな経験を積むにつれ、だんだん『すべての管楽器奏者へ』の内容への疑問が増えていきました。それが私の「管楽器歯科」におけるベースとなっているかもしれません。もちろん、私がやっていることが正解とは限りませんが。

最近藝大の守山教授が学生さんを連れて当院に来られました。その件についてはまた別の記事で書きたいと思いますが、結果的にアダプターを入れたら予想以上の効果があって随分驚かれたようで、某管楽器専門誌へ記事を書くようにと言われました。書くかどうかは別として、そういう雑誌や書籍で外部に発信するのは、ホームページとは意味合いが違います。私はいろいろなケースで起こったことがどうしてそうなったか考え、仮説を立てて、また他のケースで試す〜ことを繰り返し、いろいろなことが見えて来て自分なりのやり方が出来てきました。でも経験でしか無く学術的な根拠はありません。結果が良ければ理論はどうでもいいんじゃないの?とも言われますが、私はできれば理論的に物を言いたい。
例えばアダプターについて、根本先生は、前歯部は歯列の凹みにより複数の振動波が増幅して音色が悪くなる、臼歯部は「吹きだまり」によって口唇の振動が均等にならずに余剰な共鳴が起こり音色が悪くなるので、それを解消することで音色が良くなるのだとしています。私の経験では、歯列の凹凸を整えても良くなるとは限らない、どうも上下の関係がキーポイントのようです。何より、世の中には歯列に凹凸があっても素晴らしい音色の奏者が大勢います。アダプターの効果はもっと別なことが理由だと私は思うわけです(詳しくは過去のアダプターについての記事をご参照ください)。
当院で他院で作成されたアダプターを見る機会がたびたびあり、歯列を整えてはあるけど上下関係を無視したもの(むしろ悪くしているものもある)を見ることがあります。全国でも根本先生だけでなくそのお仲間や、他にもそういうことを手がける方が多数おられるようです。皆さん根本先生の考え方に基づいた処置をされていると推察します。時たま各所で管楽器歯科についての講演も行われているようです。

管楽器歯科という標榜名は存在しないが、管楽器歯科についてHPに載せる人も多く管楽器歯科外来を置く病院もある。イメージ的にはスポーツ歯科みたいなものではないかと思う。スポーツ歯科は主にマウスガードによる外傷の予防や運動能力の向上を目指しており、マウスガードは簡単な講習を受ければどんな歯科医にも作製可能。
私がしていることは、演奏時のレントゲンやアンブシュア、音、演奏上の問題を見た上で、アダプターの作製をしたり補綴物の調整をしたりしています。今は、少しの調整で効果的な物が作れるようになって来たし、吹いている所を見て歯の微調整をすると予想した変化が起きるようになった。同じことを、管楽器を知らない歯科医はもちろんだが、ちょっと管楽器をやったことがある程度の歯科医が出来るかというと難しいのではないかと思う。運動選手と歯との因果関係に比べて管楽器奏者のそれはデリケートすぎて、下手に何かしようとしてむしろ悪い結果になる恐れもある。(まあ、アダプターは取り外しができるので、良ければ使えばよいので、ある意味誰が作ってもいいのかもしれないが。)
全国の管楽器歯科に関わろうとしている歯科医でネットワークを作るとしても、このような情報を共有することは困難ではないか(職人芸的な面あるので)、根本先生の研究内容を信じている人とディスカッションしたところで私のストレスになるだけじゃないかとも思うので、このサイトでの一方的な情報発信にとどめているのかもしれません。

基本的には歯のメンテナンスに管楽器経験者の歯科医にかかる必要はないと思っており、むしろそれを推奨すると弊害もあると考えています。信用出来るかかりつけ歯科医院をもち、自分の歯を健康的に維持することが大切と思うのです。不幸にして虫歯や外傷で治療が必要になり歯の形が変わることもあるでしょう。妥当な治療であれば多くの場合短期間で適応して吹けるようになると思います。しかし残念ながらその形態が不適切(歯科医療としては及第点であっても)な場合もある。そういう人の役に立てればいいのかなと思っています。

つづく?


#開業して約10年試行錯誤でやってきました。常に自分のベストを尽くしてはいますが、開業当初に来ていただいた方にはあまりよい処置ができなかったかもしれません。私の考え方やスキルも常に変わっていますので、もしよければ再来院いただけると私も嬉しいし将来に活かせると思います。

|

« 歯茎用アダプター | Main | 金管楽器演奏時の前歯の痛み »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「管楽器歯科」について考えてみた:

« 歯茎用アダプター | Main | 金管楽器演奏時の前歯の痛み »