« July 2010 | Main | October 2010 »

August 2010

August 20, 2010

金管楽器演奏時の前歯の痛み

金管楽器を演奏すると前歯が痛くなることがあるようです(サックスやクラリネットでもありますけどね)。多くの場合吹きすぎて、それだけでは通常痛くはならないのだけど、歯肉に元々炎症があって管楽器演奏の刺激で増長することがあるのではないかと想像している。演奏により歯根膜が圧迫されることで発痛物質であるプロスタグランジンが誘導されるからである。対応策としては元々の炎症を押さえるべく歯の清掃と日頃の歯磨きをきちんとすること、もし押しつけ過ぎの吹き方であればそれを改善すること〜ではないかと思う。

注意してもらいたいのは、こういった症状で歯科医院を訪れた時に、咬合性外傷と判断されて歯を削られてしまう可能性があること。少々削ったくらいでは、演奏に支障は出ないとも思うが、そのために吹けなくなってしまい半年間オケを休職して実家に帰ることになった〜というプロ奏者もある。

先日、藝大の守山先生が学生さんを連れて来ました。時々下の前歯が痛みホルン吹く時に支障が出るということで、痛いので大きい音が出せず、縮こまった演奏になってしまうということでした。歯の痛みの原因ですが、受験直後や時たま吹きすぎた時に1週間くらい痛くて吹けなくなったことがあり、ホルン吹くのと関連はあるようです。見ると特に歯肉炎はなく歯茎は健康でレントゲンでも歯や骨に問題はありません。
軽い上顎前突&開咬(jetがやや大きく、overbiteは0mm)で前歯が咬んでいません。下唇に押しつけて吹いているわけではなく、演奏時のレントゲンを見ると下の前歯とマウスピースの距離が普通より大きいくらいでした。想像ですが、普段前歯が咬むことがないので歯根膜に受ける刺激が少なく、そのためにホルン演奏によってかかる力に敏感になっているのではないか〜と。
だから、根本的には開咬を直しちゃった方がよいのでしょうけど、音大の2年生だと矯正するわけにもいかず、なにか前歯にかかる力を分散させるようなものをつけてみることにしました。

少し前にアンブシュアの改造を行いよくなったところなので、吹き方はあまり変えたくないということでした。アンブシュアに影響が少ないよう薄いシートを加熱加圧して作った前歯を覆うカバーのようなものと、顎関節症があるということなので下顎をあまり前に出さなくても吹けるメリットもある唇側面を覆うアダプターを試すことにしました。
前者は軟らかい物と中間な物、硬い物(これだけ前歯をリリーフ)の3種類を試したのですが、どれも痛みには効果がなかったです。
後者はとりあえず試しに軟性レジン(マルチガード)で作りましたが、吹いても痛くないだけでなく、守山先生に言わせると音質が良くなった(倍音が変わった)、本人も吹きやすくてビックリという感じでした。4日後に実技試験があったということですが、アダプターを使用して臨み上手くいったということでした。硬いレジン(ユニファスト)で作りたいところでしたが、硬いとまた歯が痛くなるんじゃないか、精度の高いスペアが作れるのか・・と守山先生には心配されましたが、後日表面をユニファスト内面をマルチガードで作ったものはさらに良いようでした。

とりあえずよかった!歯が痛いのが改善しただけでなく、なにより音が良くなったというのは嬉しいですね〜これについてはまた次に書きます

1008251


| | Comments (0) | TrackBack (0)

August 11, 2010

「管楽器歯科」について考えてみた

私はこんなサイトをやってますが、自分の診療室には「管楽器」というキーワードを置いていません。看板表示や受付の掲示物にもありませんし、電話応対でも相手から楽器のことを言うまではこちらから聞くことはせず、ホームページのトップにも書きません(「その他」のページにこそっとちょっと載せてます)。唯一新響のプログラムに広告を載せていますがオケに寄付をしているつもりでして、表向きはあくまでも普通の矯正歯科医院のフリをしています。

最近勤務医をしている卒業4年目の歯科医師の方から「管楽器歯科」の見学に来たいというメールをいただきました。根本先生の『すべての管楽器奏者へ』を読んで歯科医師を志したのだそうです。
私は(話すと長くなるのでやめますが)成り行きで歯学部に入り、卒業後の進路を考えるにあたり矯正歯科に興味があり、プラスαで管楽器を吹くのに歯並びが良い方がいいはずだと考えて矯正歯科の道に進みました。その本が出たのは私が歯科医師になった頃だと思います。最初はよくわからないながらもちょっと変だと思い、ここはおかしいと手紙を書き(金管楽器の角度が咬合の深さによって決定するというが、なわけないだろと思った)見学に行きたいと添えて著者に出したこともありました(何の反応もありませんでしたが)。
管楽器奏者相手の歯科として成り立つのかどうかもわからず、とりあえずそういう悩みのある人が通院してきやすいようにと都心で開業をしました。そうしていろいろな経験を積むにつれ、だんだん『すべての管楽器奏者へ』の内容への疑問が増えていきました。それが私の「管楽器歯科」におけるベースとなっているかもしれません。もちろん、私がやっていることが正解とは限りませんが。

最近藝大の守山教授が学生さんを連れて当院に来られました。その件についてはまた別の記事で書きたいと思いますが、結果的にアダプターを入れたら予想以上の効果があって随分驚かれたようで、某管楽器専門誌へ記事を書くようにと言われました。書くかどうかは別として、そういう雑誌や書籍で外部に発信するのは、ホームページとは意味合いが違います。私はいろいろなケースで起こったことがどうしてそうなったか考え、仮説を立てて、また他のケースで試す〜ことを繰り返し、いろいろなことが見えて来て自分なりのやり方が出来てきました。でも経験でしか無く学術的な根拠はありません。結果が良ければ理論はどうでもいいんじゃないの?とも言われますが、私はできれば理論的に物を言いたい。
例えばアダプターについて、根本先生は、前歯部は歯列の凹みにより複数の振動波が増幅して音色が悪くなる、臼歯部は「吹きだまり」によって口唇の振動が均等にならずに余剰な共鳴が起こり音色が悪くなるので、それを解消することで音色が良くなるのだとしています。私の経験では、歯列の凹凸を整えても良くなるとは限らない、どうも上下の関係がキーポイントのようです。何より、世の中には歯列に凹凸があっても素晴らしい音色の奏者が大勢います。アダプターの効果はもっと別なことが理由だと私は思うわけです(詳しくは過去のアダプターについての記事をご参照ください)。
当院で他院で作成されたアダプターを見る機会がたびたびあり、歯列を整えてはあるけど上下関係を無視したもの(むしろ悪くしているものもある)を見ることがあります。全国でも根本先生だけでなくそのお仲間や、他にもそういうことを手がける方が多数おられるようです。皆さん根本先生の考え方に基づいた処置をされていると推察します。時たま各所で管楽器歯科についての講演も行われているようです。

管楽器歯科という標榜名は存在しないが、管楽器歯科についてHPに載せる人も多く管楽器歯科外来を置く病院もある。イメージ的にはスポーツ歯科みたいなものではないかと思う。スポーツ歯科は主にマウスガードによる外傷の予防や運動能力の向上を目指しており、マウスガードは簡単な講習を受ければどんな歯科医にも作製可能。
私がしていることは、演奏時のレントゲンやアンブシュア、音、演奏上の問題を見た上で、アダプターの作製をしたり補綴物の調整をしたりしています。今は、少しの調整で効果的な物が作れるようになって来たし、吹いている所を見て歯の微調整をすると予想した変化が起きるようになった。同じことを、管楽器を知らない歯科医はもちろんだが、ちょっと管楽器をやったことがある程度の歯科医が出来るかというと難しいのではないかと思う。運動選手と歯との因果関係に比べて管楽器奏者のそれはデリケートすぎて、下手に何かしようとしてむしろ悪い結果になる恐れもある。(まあ、アダプターは取り外しができるので、良ければ使えばよいので、ある意味誰が作ってもいいのかもしれないが。)
全国の管楽器歯科に関わろうとしている歯科医でネットワークを作るとしても、このような情報を共有することは困難ではないか(職人芸的な面あるので)、根本先生の研究内容を信じている人とディスカッションしたところで私のストレスになるだけじゃないかとも思うので、このサイトでの一方的な情報発信にとどめているのかもしれません。

基本的には歯のメンテナンスに管楽器経験者の歯科医にかかる必要はないと思っており、むしろそれを推奨すると弊害もあると考えています。信用出来るかかりつけ歯科医院をもち、自分の歯を健康的に維持することが大切と思うのです。不幸にして虫歯や外傷で治療が必要になり歯の形が変わることもあるでしょう。妥当な治療であれば多くの場合短期間で適応して吹けるようになると思います。しかし残念ながらその形態が不適切(歯科医療としては及第点であっても)な場合もある。そういう人の役に立てればいいのかなと思っています。

つづく?


#開業して約10年試行錯誤でやってきました。常に自分のベストを尽くしてはいますが、開業当初に来ていただいた方にはあまりよい処置ができなかったかもしれません。私の考え方やスキルも常に変わっていますので、もしよければ再来院いただけると私も嬉しいし将来に活かせると思います。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

August 04, 2010

歯茎用アダプター

アダプターネタが続きますが、今日は歯茎用アダプターのお話を。

前にも「歯周病で歯茎が下がったら」で、歯肉が痩せてしまった場合の処置について書いたのですが、最近ちょうどそういうケースの写真を撮ったので紹介します。

ミドルエイジの男性。元々はトランペットだったのだけど、音大でホルンを勉強し卒業してすぐ楽器を手放して長いこと楽器から遠ざかっていたが、2年前にトランペットを再開し現在はいろいろな団体で活動している方です。上の前歯から息漏れがするということ。楽器を吹いていなかった15年程前に上の前歯部をブリッジで補綴処置をしたのだそうです。見栄えも良くするために前歯4本抜歯したということです。
息漏れがするというと、歯と歯の間もしくは歯と歯肉の間の隙間があって、そこに空気が通って息漏れがすると思われがちなのですが、そうではなく、歯周病(歯槽膿漏)等によって歯肉や骨が痩せて厚みが変わるのが原因なのです。よくそういう相談で、ティッシュ詰めたら良くなったので隙間が問題なんです!とおっしゃる方が多いのですが、詰め物をすると厚みを回復するからでしょう。
この方は、他の歯科医院で薄いカバーのような物を息漏れ防止のために作ってもらったが効果がなかったそうです。だからすぐ納得していただきました。
特に歯を抜いてブリッジにするとそこの歯槽部は歯根が無いため骨が吸収して凹みます。結構厚みのあるアダプターになりました。

1008042

1008041

それよりも私が気になったのは、上の中切歯2本が短く形態が少々不自然である点。ロングスパンの補綴をすると壊れないことが重要になるので短く作るんでしょうかね。それと切縁に向かって少々内側に入っている。中切歯間の隙間が無いのも気になります。試しにレジンを盛って形態を修正しました(アダプター入りの写真はレジンを盛った後です)。かなり吹きやすくなったということなのですが、残念ながらポーセレンのブリッジなのでレジンとよく接着せず、何日かして取れてしまったということでした。今はコンクールシーズンなので落ち着いたら再処置(今度やる時はブリッジの方に引っかかりを作って外れないようにします)を考えましょうということになりました。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« July 2010 | Main | October 2010 »