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October 2009

October 26, 2009

インコグニト

矯正治療は一般的に歯の表側にブラケット(ブレース)と呼ぶ器具を接着剤で付けワイヤーで力をかけて歯を動かして行いますが、表側ではなく裏側に付けて直すのが「リンガル(舌側矯正)」です。
矯正治療中に楽器を吹くと困ることの1つがブラケットが唇に当たることですから、リンガルであれば問題ないような感じがするのでしょう。リンガルを主に行っている矯正歯科医院では、リンガルで治療する利点として「管楽器を演奏する場合も舌側矯正なら邪魔になりません。」とはっきり謳っていたりします。
楽器を吹いている人ならば、内側に器具があればあったでそれなりに邪魔だろうと想像できると思います。もちろん表についているよりも楽は楽でしょう。だからこそ、私は15年以上前からリンガルの治療を行っているし、講習会に参加したり新しい装置が出れば試したりしてます。しかしながら私は経験から「管楽器奏者にとってリンガル(舌側矯正)は万能ではない。」と考えます。それは・・・

1)管楽器奏者にとって装置自体だけでなく、矯正治療中に歯の位置が刻々と変化すること=アンブシュアが日々変わるのが実は困ること。もちろんそれはリンガルで治療しても起こることであり、むしろ表側に装置が無い分変化に敏感になることがある。
2)リンガルで治療すれば普通に吹ける&歯並びがよくなればスゴく上手く吹けるという過大な期待とのギャップがスランプ、不満を生む。
3)管楽器演奏のためにリンガルを選択する人は神経質な人が多いので、特にこういった傾向が強くなる。
4)歯の表側と違って裏側の面の形は個人差が大きいため、既製のリンガルの矯正装置では外れやすかったりワイヤーの細かい曲げが必要になる。一般的に一時的に表側に装置を付けたりダイナミックポジショナー(取り外しが出来る歯を動かすマウスピース)で仕上げる必要があることが多い(私は滅多にしませんけど)。
5)通常のリンガル用のブラケットはかなり大きく厚いため、歯肉炎が起きやすく、管楽器奏者にとって何より舌に邪魔。シラブルが変わることはある程度時間が経つと慣れるが、人によっては演奏時に擦れて痛い。
6)小さいブラケットも開発されてはいるが、治療の完成度としては劣ることが多いようだ。

上記1〜3のような患者さんを経験すると、表側の器具で直した方が「患者さんの覚悟」が出来て良い方向に行くのではないかと考えるに至ったのでした。それに加えてリンガルだと舌の違和感や治療上の不安(完成度や治療期間の問題)も考えられるので、基本は管楽器の人には表側の装置をお勧めしているというわけです。

最近日本でも入手可能になったドイツ製の「インコグニト」という製品がありまして、これは簡単にいうと「オーダーメイドのリンガル用矯正器具」。
歯に合わせてコンピューター上でデザインして作るので、歯にぴったりで薄く作ることができるので外れにくく、既製品の一番小さい物と同じ厚さ(実際はインダイレクトで付けるとレジンの厚さがプラスされるのでインコグニトの方が薄いと思う)角もないので違和感は小さいはずです。ワイヤーも出来上がりを想定してコンピューターで曲げたものが用意されており術者のストレスも無く順調に歯が動く。つまり上記4〜6が解決するということです。この講習会に行ってこれなら自分にも付けて直したいな~と思ったくらいです。
お高いのが難点ですが(私は普通の表側の矯正の料金に器具実費分を上乗せした設定にしているので、儲かる訳ではないです)、これならお勧めしてもいいなと思っています。管楽器奏者にとって歯並びの治療法のよい選択肢が増えたということであります。

当院ではまだ管楽器の方には1例のみです。サックスの音大生ですが、歯並びを直したいんだけど先生にあまり賛成してもらえず、先生に知られない様に治療したいのでリンガルにしたいということです。最初音色が変わった感じがするということでしたが、大きな問題ではないようです。以前から下の前歯用のアダプターを使用していて、これがないと吹けない!そうで、当然歯が動けば使えなくなるのですが、アダプターの内側を少々削って使用の度にヘビーシリコン印象材で歯に合わせてもらい大丈夫ということです。初めてまだ4ヶ月ですが八重歯は解消し歯が動くのが速いように思います。

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October 20, 2009

後戻り

大変ご無沙汰しております!!
また長いこと更新していませんでしたm_ _m
所属オケの運営委員長の業務(&自分でやらなくてもいい仕事まで抱えるタイプなもので)に加えまして、この夏はアレルギーで咳が止まらなくなったり、先月は新潟公演を行ったのでその準備もあって、ブログどころではなかったのでした。
細々とメールでの相談に答えたり、診療室に来る管楽器吹きの皆さんの相談に乗ったりしています。
ホルンの方はこの春くらいからアンブシュアがいい感じになり調子がよいもので、練習しなくてもそれなりに吹けるので怠け癖がついてますが、さすがにちゃんとコンスタントに練習しなくちゃと思っています。

矯正歯科医に管楽器を反対される、顧問の先生に矯正治療を反対される・・という相談はよくあるのですが、この前いただいた相談は、後戻りをするから矯正が終わって2年間も管楽器は諦めるように言われたということでした。いわゆるブレース(歯に固定する矯正器具)を付けている間に禁止するのはよくあることですが、普通はブレースが外れて楽器が吹ける様になることを楽しみにするのに・・・。通常矯正が終わったら後戻りを防ぐためのリテーナー(保定装置)を使用します。元の歯並びや楽器の種類によっては後戻りしやすいケースもなくはないですが、そういう場合は保定の仕方を工夫すれば問題ありません(私は歯並び全体をカバーするタイプの着脱式の物を使ってもらうことが多いです)。よほど吹き方が悪くなければ後戻りの心配をすることはないと私は考えます。
また、矯正と管楽器を両立すると「歯がボロボロになる」と言われたとのこと。たぶん、歯に負担がかかって歯が短くなること(ジグリング参照)をさしているのかもしれないけど、そんなこともないと私は思います。演奏時にどういう力が歯にかかるかを理解して治療をすれば問題ないし、実際管楽器を吹く人にそういう例があったのかもしれないけど、他に何か要因があると思うんですよね。

何だか、矯正治療中の管楽器を禁止する歯科医が増えているような感じです。以前、装置が外れたのをユーフォ二ウム吹いているせいだと言われたという相談があったり(絶対そんなことないです)。何かあったときに保障できないということなんだろうけど、残念です。

貯めているネタがいくつかあるので、しばらくは更新が続く予定です。

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