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March 2008

March 24, 2008

ノイズの原因

最近なぜか自衛隊系音楽隊の方の来院が多いです。

少し前に来たトロンボーンの方は、低音へのリップスラーがかかりにくいとのこと。見ると音が切り替わるときに上唇が上がる。鼻のあたりから動くので上唇鼻翼挙筋でしょうかね。歯の方はというと、骨格性の反対咬合で前歯が噛んでいなくてオーバージェットがマイナスに大きい状態です。上の前歯3本に昔からレジン冠が入っていて去年自衛隊内の歯科で長さと厚みを削ったのだそうです。最初調子良かったのに仕上げをしたら悪くなったそうです(仕上げ程度でほとんど変わらないので、たぶん削った直後は良い気がしたけど慣れてきたら駄目だったということでしょう)。
ご本人は上の前歯の角の形(切縁隅角)が原因と考えたようです(08.2.21のブログを参照ください)。ここの形はどっちかというと高音域での影響が大きいですし、吹いている所を見る分には関係ないと思います。基本は奏法自体の問題です。
演奏時のレントゲンを確認すると前歯の被りは正常(上が前)で前歯の上下的な開きがとても大きい。これだけの反対咬合の人が上の歯が前のポジションをとるためには下顎を大きく後下方へ回転させる必要があるのです。それで無理な筋肉バランスになってコントロールが出来にくくなっている可能性がある。もう一点、下の犬歯が磨り減らないで長く尖っているのも影響がありそうです。その分上唇を上げたり下顎を開く必要が出るからです。
そこで、上の前歯を厚くすることと下の犬歯を削ることを提案しました。レジンでおそらく0.5mmほど厚くしその分長くしました。最初は息が入らないので短くしてほしいと言われましたが、長い方が上唇は上がりにくくなりますので、そのまましばらく吹いてもらい随分楽に吹ける感じになりました。次に犬歯の尖っている所を1mm程削りましたが、さらに随分楽に吹けるようになったようです。上唇の無駄な動きは完全には直りませんでしたが、だいぶ小さくはなりました。まあ奏法の問題ですからすぐには直りません。

トランペットの方も来ました。上の前歯あたりで息漏れがしてジーッとノイズがするということ。上の前歯は少々ウィンギング気味(捻転して真ん中が前に出ている)だけどサホド問題のない程度。昔自分で上の真ん中の前歯の間をヤスリで削ったんだそうです。でも駄目で自衛隊内の歯科でレジンで直してもらったということでした。確かに歯ぐき寄りにほんのちょっとの隙間があり、それが原因でノイズがすると考えたようです。(そこをスーパーボンド:歯科用接着剤で埋めてもらったこともあるそうで・・・かえって歯ぐきが下がるだろうに。)
パッと見は綺麗にレジンで修復されてるんですが、模型にしてまじまじと見ると少々不自然な形。おそらく2本はほんの少々ずれていたのにレジンで揃えてしまっているし、角っぽいのです。そこでまず、本来の歯であろう形にレジンを修正しました。それだけで随分息が入りやすくなり音もよく鳴るようになりましたが、ノイズは直りません(といっても大したノイズでないんですけどね)。次に、隙間には手を付けず、捻転している右下の歯の出ている部分を少々削りました。というのは右上の前歯のレジンの厚みが少々不自然、それから推測するに歯を削った後下の歯が出てきたと考えたからです。上下の前歯を合わせた時に、その部分が出っ張ってしまいますので、一つの面になるように調整しました。するとどうでしょう、ドンピシャでノイズは消失しました。
歯と歯の間には鼓形空隙という三角の隙間があり、歯ぐきの位置によっては正常でも隙間が出来ます。その隙間が原因で息漏れがすると思う人が多いんですが、私はその隙間を空気が通るために息漏れが起こるのではないと思います。そこをレジン等で塞ぐと改善することはありますが、それは空気の通り道を塞いだからではなくて、歯周病等で出来た歯槽部の凹みが補われるためと想像してます。(ホントのところはどうなのかはわかりません。)
今回下の歯を削って上手くいったのは、下の歯が一部出ていることで上唇が密着しなかったために起きてたからではないかと思うのです。

080324

スゴい削ったかのような文章ですが、実際はパッと見てわからないくらいの微妙な調整であります。

#自衛隊の歯科の先生は患者の希望を色々かなえてくれるんですねえ〜〜

約20日ぶりの更新でした。吹きすぎても首が痛くならないと自慢したばかりなのに、2週間前に首が動かなくなってしまい整形外科通いをしてます(涙)。それでPCはなるべくいじらぬようにしてました。診療の姿勢やPCが首に悪いんだろうなあ、今回は真面目に直そう・・・

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March 05, 2008

金管用アダプターと音色の変化

この前ググっていたら、こんな論文(というか発表の抄録)を見つけました。
ミュージックスプリント装着による音色変化をデジタルフィルタリングで評価する試み(2004年日本医療情報学会)

ミュージックスプリントとは私がアダプターという用語を使っているものと同一のものです(ややこしいのでここでは「アダプター」で統一します)。発表の内容は簡単に言うと、1)アダプターを装着することで音色が良くなることが証明された、2)アダプターの効果の客観的評価方法が確立できた...の2点ではないかと思います。

私も昔、治療の効果を記録&評価するために、周波数分布を簡単に解析できる方法はないかなと調べたことがあったのですが、結局聞けばある程度わかるし、そのままにしていました。ビデオや録音でもいいので何かルーチンに記録したいとは思ってるのですが、余裕無しなもので・・・。
ここでは「音色」変化としていますが、楽器の音色というのは、この「周波数分析」で表されるもの(音質)の他に、音の立ち上りや減衰の音形(音量)とピッチやヴィブラート(音程)の3つの要素があるのだと思うのです。だからこの方法で評価できるのは音質なのではなかろうかと。
まあそれはどうでもいいことなので、音色で話を統一することとしましょう。
音色が良いかどうかを試聴し選択させるという方法についは、研究としてはいいんでしょうけど、日常の臨床では現実的でないですね。その楽器の良い音というのは「その楽器らしい音」ではないかと思うのです。もちろん、それに好みとかジャンルとかが入りますけど。だからそういうデータ(ヤマハとかが持っていそう)と比較分析できると簡便に判定できるのではないかと私は思います。

金管と木管(シングルリード)のアダプターの作用機序は全く違うので、この発表がトランペットですので今日は金管楽器のアダプターと音色について少々書きたいと思います。
私はこちらの病院で作製された金管用アダプターを3例程見たことがあり、またこの発表でも写真が掲載されていますので、それらから想像するに、どうも「前歯の並びをつるっと整える」だけのデザインであるようなのです。ともすると前歯がつるっとさせること自体がよい音につながると理解されがちと思いますが、それは違うのです。音色を決める要素の一つが振動する口唇の質や状態※(下に注釈あり)ですが、アダプターが直接口唇の振動に何か起こすのではなく、間にいくつかのステップあると考えています。つまり
アダプターを入れる-->リムの当たる位置が変わる-->下顎の位置が変わる-->アンブシュア(口唇周囲の筋肉のバランスが変わる-->振動する口唇の状態が変わる、とか、あるいは、アダプターを入れる-->口唇の位置関係が変わる-->アパチュアの位置が変わる-->振動する部位が変わる、とかいろいろなヴァリエーションがあるのではないかと思うのです。
だから、顎や筋肉のバランスを考えてアダプターを作るべきと考え、私がデザインで重要視するのは上下の関係なのであります。アダプターは加えるものなので、ある程度どうしても厚さが必要になるから、叢生を解消するだけのつもりがそれ以上の変化が起こるのです。だから、それがたまたま良い結果になる場合あるし、悪い結果になることもあるのだと思います。また、臼歯部用のアダプターは某所で多用されているようなのですが、これは音色が悪くなることがある。確かに楽に吹けたり息漏れしにくくなるかもしれないけど、口唇が横に引かれてしまうから。

この発表のケースについて申せば、これは想像ですが、左側(写真の右側)2番から4番が反対側に比べて舌側に入っているのが補われてちょうど口角を支える部位のバランスがとれたことが、演奏向上の要因と思われます。厚みが出たこともこの人にとってはよい変化だったのでしょう。しかし、装着前後で右下5番と左下4番の状態が違うのが気になります。アダプターを使用し始めてからかなり期間が経っているのではと思うのです。アダプター無しでも以前は良い音がしていたかもしれず、アダプターを使うのに慣れてしまうともうその状態に戻れないわけで、同時期にアダプター無しとありを比較してもあまり意味がないんじゃないかな・・・。

アダプターでつるっとさせることを単純に下顎前歯の叢生の改善と考えるとすると、私は叢生自体が音色を悪くしているのではないと思います。私の知っている美音系超一流奏者はむしろ下の前歯の並びはがたがた。おそらくそれを改善したら出なくなるでしょう。ああいう音のためには叢生であることが必要なのかとさえ思います。
下唇が傷つくとか顎がずれるあるいは下唇を前に出したいといった具体的な目的があればわかるのですが、叢生というだけで音色を良くするためにアダプターを入れることはナンセンスだと私は思います。困ってなければ叢生は気にしなくてもいいですヨ。


※この辺が正直言うとよくわからないのです。一般的に音色はアパチュアの形と相関があると言われています。口唇周囲の筋肉のバランスによってアパチュアの形が変わるわけで、たとえば口角を横に引くとアパチュアは横に広がり音色は薄く硬くなるけれど、横に引いたアンブシュアだと口唇が引っ張られてフレキシビリティがなくなり硬くなり振動する口唇の量も減る(=リムの中の口唇が薄くなる)ということではないかと想像しているのですが、アパチュアの形自体も関係あるような気もするし・・・・勉強不足でスミマセン。

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