January 20, 2017

管楽器奏者のジストニア(2)

数年前になるが、歯並びを直したいというクラリネット専攻の音大生が来院した。楽器を吹けなくなってしまい、その原因が歯並びにあると考えたからという。吹けないというのはどういう状態かというと、楽器をくわえて音を出そうとすると、顎がガクガクしてしまう。実際の歯並びとしては、左下の犬歯が唇側に出て左右非対称になっている。右側から息が漏れる状態で、上顎前歯も両方で咬むことができず、片側にパッチを何枚も貼って少しは良くなったということ。
あまりのガクガク具合で、歯並び直してどうなるかはわからなかったけど、奥が鋏状咬合になっていたり、少なくとも矯正治療をした方がよい歯並びであったので、治療を始めることになった。

出ている左下の犬歯を後ろに下げていくと、1日5分とか吹けるようになってきた。吹いている様子は見なかったが、治療に伴いだんだん吹ける時間も増え、大学も無事卒業することができた。矯正治療も終わり音楽関係の仕事をしながら楽器も細々と続けているということで安心していた。

先日の来院時、クラの方はどうですか?と聞いたところ、吹奏楽などのtuttiでは吹けるのだが、ソロとなるとまだ難しいということ。専門のところでジストニアの診断がついたそうで、投薬治療を受けたり(副作用が演奏の妨げになりやめた)、今は運動療法(吹くときの姿勢の改善)を行っているのだという。そして、彼はまだクラリネット奏者となることを諦めていないと感じた。

前から気になっていたのが、とにかく前歯部の咬耗が激しいこと。初診時から磨り減ってはいたが、矯正治療中も明らかに磨り減った。今は歯を被うタイプの保定装置を使っているので保護はされていると思う。それもあって下の前歯のアダプターを試してみないかと提案をした。吹いているところを見てみないとどのようなデザインにするかは決められないけど、演奏時の顎位を変えることでアンブシュアのバランスが変わって好転するかもしれないから。

それで、演奏時のレントゲンを撮ってみた。下唇を大きく巻き込み、マウスピースをとても深くくわえている。初診時のレントゲンと比べると下顎の開きが約1cmも違う。いろいろ試行錯誤の結果なのだと思う。こうすれば少なくともtuttiで吹けるくらいには音が出せる。おそらくこのくわえ方にしたときの筋肉バランスが良かったのだろう。
だったらこの顎の開きで下唇を巻き込み過ぎず、マウスピースも普通にくわえられるようにすればよい。この日はいろいろ吹きながら調整して、結果下顎前歯部分で約6mmの高さのアダプターを使ってみることになった。これを入れてすぐには理想的なくわえ方にならなかったが、少しはくわえ方を改善できたようで、暗く太い音から明るくクラリネットらしい音色に近づいた。

演奏時のレントゲン 初診時   →   現在(アダプター無)
1701201 1701202

これでもうしばらく練習してくわえ方が安定したら、またアダプターを調整しようと思います。

つづく。

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January 17, 2017

管楽器奏者のジストニア

音楽家のジストニアが注目されるようになって10年くらいだろうか。

ジストニアというのは、「筋肉の緊張の異常によって様々な不随意運動や肢位、姿勢の異常が生じる状態」(日本脳神経外科学会のサイトより)をいう。管楽器奏者では、演奏時に限定して起こるアンブシュアや指の不随意運動(意思と関係なく震えたり動かなかったり)がそれにあたる。
全身性のジストニアと局所性のジストニアがあり、音楽家のジストニアはごく一部の症状なのでフォーカル(焦点)ジストニアとも言われている。脳性まひのように脳の病気で二次的に起こるものもあるが、それ以外は原因のよくわからない本態性ジストニアである。
治療方法としては、異常な動きをする筋肉にボツリヌスを注射して麻痺させる、あるいはその筋肉の運動神経を遮断する。全身性のジストニアには脳深部刺激療法といった治療法がある。

10年前は、半年といった長期間「まずは演奏を休む」ことが推奨されているようであった。ジストニアは反射であるから、その反射を中枢が忘れることが必要なのかと思った。
私の診療室にも、1~2年に1人くらいの割で、ジストニアかな?と思うような患者さんが相談に来院されることがある。多くは、普通は起こらないくらいの不安定なアンブシュア。細かく口唇が震える程度から、顎がガクガク動く重症な人まで。もちろん、奏法の問題や練習不足、いわゆるスランプなのかもしれないし、ジストニアかもしれませんねと言ったとしても、それは演奏を休むくらいしか対応策がないし、適切な紹介先を知っているわけではなかったので、自分からジストニアというワードを出すことはあまりしていなかったと思う。
私ができる範囲のこと~例えばアダプターとか歯の治療で、楽に演奏できるようになる可能性があれば試してみた。ご本人の希望で矯正治療を行うこともあった。

現在は、音楽家のジストニアの専門家と称する人も増えており、管楽器奏者のジストニアへの取組としては、楽に楽器を演奏できる姿勢とか運動療法的なものが中心のように思う。そういう意味では、歯科的なアプローチで楽に演奏できるアンブシュアを試みることはそう悪いことではなかったのではないかと思う。
そもそも一般的な治療方法である筋肉や運動神経を麻痺させることは、口唇周囲のような複雑で繊細な組織にはリスキーすぎる。抗精神薬などを処方されることもあるらしいが、副作用や依存性を考えるとそう飲みたくないものである。

つづく。

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January 13, 2017

アダプターは何年もつのか

当院では木管楽器用のアダプター(ミュージックスプリントと呼ぶ人もいる)を樹脂で作っています。商品名「ユニファスト」という即時重合レジンで作製することが多いのですが、一般的に時間がたつと臭いや色が着くため、数年くらいはもつけど、汚くなったら作り直しましょう、とご説明しています。
しかし、数年たって新しい物を作りに来る人はそう多くはなく、やっぱり使っていない人も多いのかなと思っていたのですが、このところ10年近く経って再作製に来られる人もあり、大抵ギョッとするほど汚くてびっくりしていました。

先日来院した人も11年前にクラリネットのアダプターを作製した人でした。それが、とてもきれいに使っていて、少々の変色はしていますがとてもきれいでした。プロ奏者でアダプターなしでは演奏できない状況ということで、長年にわたり毎日長時間使用していたと思われます。
ということで、今度から「まめにきれいに洗えば10年くらいは使える」とご説明することにします。

さてこの方の来院理由ですが、新しいアダプターを試したいということでした。薄くしたいのと、下顎を少々右にずらして「アジャストさせている」(本人談)ので、ずらさなくても吹けるようにしたいということ。上顎前歯の正中が顔面に対し右にずれているため、マウスピースを右にずらしてくわえているので、下顎前歯の中央でくわえるために下顎をずらす必要があったのです。
当時は私も木管楽器のアダプターの作製を始めてまだ少ししか経っていない頃で、下顎歯列とのバランス・対称性を重視して作っていました。(ご本人の希望もあり、ふくらみの無い平らな仕上がりとなっていました。)その後、多くのアダプターの経験をし、金管と同様に上下のバランスが大事だということがわかってきました。ですので、今回は左右非対称の上顎歯列に合わせて、下顎の膨らみの中央をずらし、噛んだ時に均一になるように作りました。予想通り下顎をずらさずに吹けるようになりました。長年慣れ親しんだアダプターの方が慣れた感じの音がしましたが、本人は新しいアダプターに満足ということで、以前の愛用品も新しいアダプターに近づくように削って修正しました。おそらくしばらく練習すればポイントが見つかってより音となるでしょう。

約10年前のアダプター
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今回作ったアダプター
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10年も使えてこれ無しでは吹けない存在になるのに、1つ8千円で作っております。レッスンに何度も行くより効果が大きいこともあるんじゃないかと思いますし、価値を感じてくださる方もいますので、そろそろ値上げしたいと考えております。

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December 14, 2016

備忘録2016

1年が経つのは早いです。もう年末ですね。昨年の今頃、マウスピースや右手の形、楽器の持ち方などを見直した話をごちゃごちゃと備忘録として書いたのですが、それから1年、またいろいろ考えながらホルンを吹いていたわけです。

・楽器を膝に置かず持って吹くようになって、とても自由になった。以前は固まって吹いていたが、動けると何だか楽しい。
持って吹けるようになったのは、楽器(デュルク)が持ちやすかったのもあるのだが、音程や鳴りの面からどうしても103GPに戻したかった。しかし持って吹くのは非常にしんどい。そこでハンドレストを付けた。これはとても良い。なぜ今まで使わなかったのだろうか。
それでもちょっと角度的に持ちにくいので、レバーにクラリネット用のサムレストクッションを付けた。最初はグニュっとしてタイムラグが出来てしまったが、慣れれば大丈夫である。レバーに指をかける角度を好きに出来る。手の小さい人にはお勧めしたい。

・楽器を103GPに戻すと、良いと思っていたマウスピース(JK2DKAS)がしっくりこない。昨年の私のマウスピースコンテスト(単に吹きやすい物を選んだだけ)の勝者ブレゼルマイヤーにしてみた。昨年はまだ楽器を膝に置いていたので、リムの平らなマウスピースは当てる角度が限定され体が痛くなって止めたのだが、持って吹くので大丈夫になった。若い時長い間アレキ8番を使っていた私はVカップに近い方が合っているのか。

・音域によってリムの位置を意識的に上下させるようにした。高音域では上へ、低音域で下へ。歯が少々唇側傾斜しているので、高音域では上向きに、低音域では下向きに角度も意識的に変えて吹くようにしてみた。
今までウォーミングアップに時間がかかっていたのが解決したような気がした。
おそらく、下の前歯とリムの位置関係が固定で、高音で歯を閉じるためには上のリムが上にずれる必要があり、低音では逆ということと思う。
音の高さの調整は歯の開きだけではないので、これだけに囚われてはいけないと思う。しばらくは意識して位置を調整していたが、あまり考えるのはやめた。大事なことは口唇とリムは自由であることと思う。

・顔の向きについて、以前は少々顎を上げ気味にしていたのを正し、むしろ意識的に下を向くようにしていた。楽な音になるし(舌骨上筋群が緩むためと推測)、首も痛くならない。
しかし、自分は楽に吹いているつもりでも、演奏会の録画を見ると顎を引き過ぎでとても窮屈な体勢に見える。
上部頸椎を曲げて下向きにするのではなく、下部頸椎から曲げて頭を前に出すようにすると良いのではないかと、いろいろな奏者を見て気づく。

・練習の仕方について、平日でもコンスタントに練習したい。しかし、自宅の狭い防音室やカラオケやデッドなレンタルスタジオなど環境が変わるとあまり良い練習にならないし、むしろやらない方がよかったと思うことさえある。
そこで、毎日同じ時間帯に同じ場所で同じ位置に座って同じ楽器で練習することにした。具体的には夕飯食べて8時くらいから診療室の場所を決めて練習することにして3か月。音色を確認しながら練習ができるのは大事だと思う。遅い時間まで練習するので、夜なかなか眠れなくなり睡眠不足に。平日に広いところで吹けるどこか団体に所属したい願望あり(昔から木曜夜練習の団体を探しています。誘ってください)。

・右手について、少し前からオープンにして(手のひらとベルの間を開ける)吹いていたが、ある時ベルの真ん中に手を平らにして入れると良いと聞き(出典は下記のyoutube)、それはないだろうと疑いつつ試してみるととても良かった。楽器が楽に持てたためと思う。しかし理屈の上では、特に高音域はベルの形態に沿って手を添えないと音が当たらないということらしい。低音パートのシーズンためか問題は起こらなかったが、結局戻すことにした。

French Horn Hand Position by Engelbert Schmid Horns

・下唇が左にずれるので、左右の口唇の被りが同じになるように意識して練習してみた。中低音は良い音になったような気がするが、高音域がきつい。歯が閉じないのだと思う。(前回のブログ参照。)歯並びが非対称なために長年少しずつ咬耗してきたであろう歯にレジンを盛って10日経つ。顎をずらさずに吹けるようになってきた気がする。やっぱり歯並びは大事だと今更ながら思うが、日本には歯並びは金管演奏に関係ないと言い切る専門家がいまだにいるのはどうしてだろう。

・大昔、私はハイトーンが得意で中低音は不得手であった。スランプを経て奏法を見直し、すっかり中低音が得意な奏者になってしまった。自分としては今だ低音域は苦手意識あるし嫌いだが。基本口蓋が浅く高音域の出やすい口腔形態をしているので、特に高音域のためのエクササイズもしてないし、オケでも低音域を重宝がられ高音域をあまり吹かないので、このままだと高音域がダメになってしまう危機感あり。
シラブルや圧力だけでなく、広頸筋を意識してみることにした。私の場合、高音域で口角が上がってしまうことがある。そうならないように口角下制筋などに力が入りすぎると、今度は音が悪くなる。そこで、口角下制筋ではなく広頸筋を使って口角を安定させると良いように思う。目下思い立つと広頸筋のトレーニングをしている。

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December 05, 2016

結局は歯並びは大事

思い立って前歯3本を長くしてみた。
左上3番と左下2番3番を試しに1mmくらいレジンで長くした。とにかくびっくりするくらい吹きやすかった。調子が出るまで苦戦するアルペジオの練習も楽に出来るし、高音域も無理なく出るような気がするし、見た目も何か昔こんなアンブシュアだったよなという感じ。当然レジンは噛んでしまうし、酸処理や接着剤を使っていないので取れてしまったが、もう長くしないで吹くことができない。
そこで、思い切ってきちんと酸処理をしボンディング剤も使ってレジンを盛った。今までの咬頭嵌合位で咬合調整すれば盛ったレジンは無くなってしまうので、咬合位を変えて(直して)、当然臼歯はちゃんと噛んでいないがガイダンスを調整し、当初より短くはなったが、思惑通りのアンブシュアに近づいたと思う。

そもそも何で長くしようと思ったかである。
そもそもは「金管楽器のドッペルトーンはなぜ起こるか」を、とあるSNSでの意見交換で書き込みをきっかけに考えているうち、そうだ私も改善しようと思ったからである。
ドッペルトーンは簡単に言ってしまうと、演奏時の上唇と下唇の被りが均一でないからで、原因としては、歯並び(特に下の犬歯が出ている時に起こりやすい)、あるいは何らかの影響で演奏時に下顎が横にずれてしまっているからではないかと考えている。そのためにドッペルトーンあるいは息漏れが起こり、起こらなくても無理な力がかかってアンブシュアや音質に影響が出るのではないかと思う。

昔それについてはこのような記事を書いている。
金管演奏時の上下口唇の関係(1)

私はというと左側の下唇がやや出気味なので、意識的に下顎を右にずらし(左にずれているのを修正し)左側も上唇が下唇に被るようにして練習してみた。中低音は良く鳴るようになったが、高音域がキツくなってしまった。
私は以前自分で歯の調整やアダプターの試作を含めアンブシュアをいじりすぎて自滅したので、長いこと形にこだわらず鏡も見ず口唇を意識せずに吹くようにしていた。あらためて自分のアンブシュアを観察してみると、下顎を左にずらして吹いており、必要があってずらしていることがわかる。私は少々歯並びが左右非対称で、そのために歯の咬耗も左右非対称に起きて左側の歯が磨り減っているのである。だからまっすぐ歯を開くと歯の開きが左の方が開き過ぎる。下顎を左にずらしてアンブシュアを作ると歯の開きが左右対称になるのである。

歯の開きが左右対称だと良いことについてはこちらの記事。
歯の開きのバランス

つい2年前に同じようなことを書いているのに忘れてた。
やっぱり歯の開きは左右対称がよい


歯を3本長くして、下顎をまっすぐにしてアンブシュアを作った時の歯の開きがほぼ左右対称になるようにはしたが、臼歯が噛んでいない状況なので、思い切って歯並びを直すことにした。いろいろ考えてマウスピース矯正(クリアアライナー)。アンブシュア目的だと吹きながら歯の動かし方を調整しやすいからである。半年くらいはかかるかな。結局は歯並びって今更ながら思うのでした。

1612051 1612052
元は左図。左側(向かって右)の方が歯の開きが大きい。右図はレジンで仮に長くしたところ。


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November 20, 2016

2つのアダプター

以前から当院で作製したアダプターを使用しているクラリネット奏者が、アダプターを無くしてしまったので再作製したいということで来院しました。

最初に作ったのが10年前(=A)で、6年前(=B)にスペアを作りました。スペアを作る際に、私の方から敢えて形状の変更を提案し、最初の物よりも幅を狭く、咬合時の上顎とのスペースを狭くしました。
多くの方のアダプターを作製していくうちに、私なりに「よいデザイン」の要件ができてきて、幅はあまり広くせず、下顎犬歯間の幅を変えない。そうすることで下唇を下顎歯列に密着しやすくなり下唇が安定すると考えたのです。また不思議なことに咬合調整をきちんとすると良い結果となり、それは上下のバランスを取ることと、下顎のセッティングの安定につながるのではないかと想像をしていました。
私としてはAを見て過去の自分を反省し、私なりの良いデザインであるBを作ったわけです。

以前のブログ記事はこちら

A 1611201
B 1611202

ところが、無くしてしまったのはAの方で、メインでこちらを使っていたのだそうです。Bでも使えなくはないのだけれとAの方が音色が好きだそうで、個性的な音色が武器となっていたということです。AとBの違いは

1)Aは作製時に模型のアンダーカットを埋めて作製したので歯との間にわずかに隙間があるが、Bは内面を一層削って軟らかいレジンで直接口腔内で硬化させたため、歯に密着していたのです。Bではリードの振動が直接歯に伝わるために痛みを感じ、しっかり噛みこむことができないということです。
2)幅が違う。前述のような理由で幅を狭くしましたが、広い方がマウスピースが安定してよいということでした。
3)Aは真っ平でしたが、Bはなるべく咬合するようにしました。平らな方がよいのではということでした。

Bを作製したときのベースはAのコピーでしたので、今回はBのコピーを作製して写真を参考に幅を変え、あとは吹きながら以前の感覚を思い出していただき調整していきました。

できあがりはこちら(=A’)

1611203 1611204

本人の吹奏感を元に高さを調整しましたが、正面の写真で見ると左右傾いて見えるのですが、下から見るとバランスが取れているかな。

語弊があるかもですが、私の感想としてはA’はフランス的なふわっと柔らさを纏った音、Bはドイツ的なしっかりした境界明瞭な音。ご本人によれば、しっかりマウスピースを噛むことが出来るので、口唇に力を入れずに吹くことができるからではないかということでした。

私も今後は思い込みをせずに、本人の目指す音色やアンブシュアを理解して、いろいろ試して形態を作っていきたいと思いました。

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November 10, 2016

ダブルリップ用アダプター

当院にて、上の前歯の調整をし、下顎前歯のアダプターを作製して使っていただいているクラリネットを吹く方です。今度はダブルリップに挑戦したいということで、上顎にアダプターを試してみることになりました。

以前の記事はこちら

クラリネットのアンブシュアは、通常上唇は巻かずに上顎前歯で直接マウスピースを噛み、下唇は巻いてリードを噛むのですが、ダブルリップというのは、上下とも口唇を内側に巻いてマウスピースをくわえる奏法です。
メリットとしては、音色が柔かくなること。おそらくリードにかかる力を弱くできるからではないかと思います。しかし、歯の状況によっては上唇内側の粘膜が痛くなる可能性があります。

この方の場合、上顎前歯が磨り減って鋭利になっているため、ダブルリップで吹きたいのに上唇が痛いということです。しかし、歯が磨り減って咬合高径が低くなっているので、そういう意味でもダブルリップは有効かなと思います。

そこで、相談していろいろ試して、結果このような物になりました。

1611101

ソフトシート1.0mm(一番薄いもの)を使用し、加熱圧接すると出来上がりは厚さ0.5mm。表側は長くても気にならないということで、保持のために歯頸部から5mmほど。内側は、あるとタンギングに差し支えるというで、歯頸部ぎりぎりに。最初は犬歯~犬歯にしましたが、段差があると違和感があるということで奥まで伸ばしました。

1611102


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November 02, 2016

歯の長さを整える

オーボエ用の上顎アダプターがとても効果があったので掲載します。

普通の会社員をされているけど音大出身のかなり上級者です。元々は上顎前歯2本の長さが違うために当院にいらした方で、歯ぎしり等により歯が全体的に磨り減っているのだけれど、1本は補綴物(セラミック)のために長さが保たれており、結果2本の長さが変わってしまった。
そこで、もう1本の方をレジン充填材で長さを調整し、演奏上の効果もあったし壊れることもなかった。
全体的に歯が磨り減っているために、咬合が低くなっており、なので下顎前歯部のアダプターで咬合を上げて演奏が出来た方がよいと考え勧めたのだけど、違和感があって使用はしていないということ。

何年かして、今度は上顎の側切歯、犬歯がかけたということで来院された。歯の咬耗は進み、左右とも中切歯に比べて側切歯と犬歯が短い。
最初はレジン充填材にて歯の形態を長くし、咬合調整も十分にやったのであるが、なにせ歯ぎしりで歯にかかる力には耐えられず、取れてしまった。歯ぎしりによる歯の損傷を防ぐためのナイトガードは使用しているが、どうしても日中でも無意識に歯ぎしり食いしばりをやってしまうのだそうである。

1611021

そこで、着脱式にして長さを補うようなアダプターを試すことになった。模型上で歯の長さを整え、それにハードタイプのシートを使用してマウスピースを作成した。
結果は期待していたような効果があったということで、pやsfが特に良くなったとの事。ご本人によれば、歯の長さが短いと、その部位の口唇・頬の支えがないため、内側に寄る方向に力が入って、上唇の中央部に厚みが増してしまうのではないか。そうするとリードに余分な力がかかってしまい、キャパシティが減ってしまう。ということです。

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オーボエ・ファゴットでは、口唇を内側に巻いてアンブシュアを作るので、どうせ歯並びは関係ないと思っている人は多いのではないかと思うのですが、やっぱり関係あるんですよね。

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October 31, 2016

反対咬合とトランペット演奏 その4

さて、治療方針をどうするかです。反対咬合の程度が大きいため治すとしたら、外科矯正を併用する大掛かりな治療となるため、プロ奏者として活動しながらというわけにはいかない。部分矯正で軽い反対咬合にするという手も考えましたが、とりあえずアダプターを試すことにしました。
アダプターは出すことはできてもひっこめることはできない。反対咬合のアダプターは普通に考えれば上の前歯に付けて前に出すでしょう。しかし上の前歯を大きくアダプターで被うことは、金管楽器を吹いていれば使い物にならないことは想像が出来ます。そこで、下の前歯にアダプターを入れることにしました。演奏時の歯の開きは必要以上に大きく、そのため下唇が内側に巻き込まれているので、歯を長くし、しかも内側に入るようにデザインしました。
作ってみて試奏すると音は出る。これが仕事の場で使えるかどうかは、しばらく使ってみないとわからないとは思いました。音色は大きく変わりました。元は深く柔らかな音質で、もちろんそれはそれで魅力的ではありましたが、アダプターを入れるとトランペットらしい硬質で華やかな音になりました。

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さてアダプターを作って1か月半ほど経過し、再来院されました。アダプターは常用しており、無しでは演奏できない状況との事。特に高音域のアタックが改善されたということでした。
演奏時のレントゲンを撮らせてもらいました。
中音域では、下顎の位置は変わりませんが、アダプターの分歯が長くなっているので、下唇が内側に巻き込まれれ方が減ったように見えます。
高音域では、アダプター無しに比べて下顎の位置が約3mm上方になり、アダプターの高さ2.5mmを加えて、歯の開きが約5.5mm狭くなっています。本人の感覚として舌を拳上しなくでも出るようになり、より高音域でさらに舌を拳上できるようになったということです。実はレントゲンでは舌の上面の位置は変わっていないのですが、下顎の位置が違うので、相対的に舌を拳上せずに済むようになったということですね。だからアタックがやりやすくなったのです。また、高音域では楽器の向きも変わりました。アダプター無しでは下唇の支えがないため下向きでしたが、中音域とあまり違わなくなりました。

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中音域              高音域

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September 08, 2016

反対咬合とトランペット演奏 その3

前回の「反対咬合とトランペット演奏 その2」で紹介したプロ奏者のレントゲン写真を分析重ね合わせした。
高音域では関節頭が後方に行っているが、関節窩の形態から、どうしても下方に行く必要があり、結果下顎が回転して前歯が開いているのがわかる。
下唇を巻き込まないと吹けないということであったが、レントゲンでも巻き込まれているのがわかる。演奏時に歯を開いていることが原因と思われる。

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さて、反対咬合・受け口といってもいろいろなパターンがある。骨格的なバランス、前歯の傾斜、下顎骨の形態などなど。骨格的に上下顎のアンバランスの程度が大きいほど下顎前歯の舌側傾斜の程度が大きくなることが多いし、骨格のバランスは良いけど前歯が唇側傾斜してるために反対咬合になることもある。反対咬合でも演奏時の顎位はそれぞれであるはずである。
根本先生の説では、反対咬合では演奏時の前歯の関係は上よりも下の前歯が前に来るということであったが、私はなかなかそういうケースに会ったことはない。一人だけちょっと下の歯が前に出ているかなというレントゲンがあったのでよく見ていると、ほぼちょうどと言ってよいようである。この人の場合は、下唇の唇側傾斜が大きく、どうしても下顎前歯の切端が前に出やすくなる。

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つづく

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