上の前歯だけを直す

基本的には、管楽器だから治療方針を変えるということはないのだけど、クラリネット(シングルリード楽器)を吹いている人に特にお勧めしたいのが、上の前歯だけをちょっと直す矯正治療だ。1本だけ直したい歯並びってあるのだけど、その歯だけ動かしてすむわけじゃなく、全体を動かさないといけない時が多いけど、周囲をちょっと広げて何とかなることも時々ある。歯科矯正的には簡単な治療なのだけど、クラリネット演奏にはとても効果が高い。治療費が通常の矯正治療の半分以下で治療期間も短いので、前歯をさし歯(補綴処置)で直すくらいなら是非検討してみてほしい。

以前「クラリネットの上顎用小さなアダプター」(2019年4月4日の記事)としてご紹介したプロクラリネット奏者。前歯が1本だけ前に出ていて、その他がきれいだったので、アダプターを作り使用してもらった。こんなに良いのであれば歯並びを直したいということで、マウスピース矯正で部分的に直した。使ったのはアソアライナーという日本製のマウスピースで、インビザラインに比べて安価で指定されている使用時間も短く、ちょっと大きめなので歯列を広げるのが得意でアタッチメントがいらないので、ちょっとだけ直したい人にはお勧めである。

<治療前>
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<治療後>
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金管楽器に下の前歯は関係あります

プロトロンボーン奏者が来院した。ある歯科医院にメンテナンスで通っていたら、咬合調整しますと言われ前歯を削られてしまったとのこと。行くたびにどんどん削られ、高音域が普通に吹けなくなり、無理に口唇に力を入れてアパチュアを絞めて吹いているということだった。
見ると何本も前歯が削られ短くなり、唇側面も斜めに削られている所もあった。その歯科医院で咬合調整されたとき、奥で噛むと前歯で咬合紙が抜けてしまい噛まなくなってしまったそうだ。
そちらの歯科医師はご自分もトロンボーンを演奏していて管楽器歯科を名乗り、「金管楽器に下の前歯は関係ない」と言われたという。

まず、下の前歯3本(21|1)の元の歯の形を想定してレジンで戻し、高音域が普通に吹けるようになったが、切端位で下顎がブルブル震える。次に右上の前歯(1|)に削られた形跡があるのでレジンを盛ったところ、切端位で安定した。切端位を取れることは金管楽器には重要なのだ。下顎が左にずれており、右へ動かしにくい状況で、それは右側の犬歯のガイドがないからと考え、削られている右下犬歯(3|)にレジンを盛り、良くなった。

なぜ金管楽器に下の前歯は関係ないと思ったのだろう。アマチュア奏者での歯の治療をした経験からだろうか。何の目的で前歯を削ったのかも謎だが、下顎の右側への側方運動時に前歯が当たるので削ったのかと想像する。それなら若い頃に削ったと思われる右下犬歯にレジンを盛ってガイドさせるべきだったと思う。いずれにしても一流奏者の前歯を、本人が望まないのに削るなんて信じられない。

当院初診時(奥で咬んだところと少し前歯を開けたところ)

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処置後

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世の中にはいろいろな考えをお持ちの歯科医師がいるので、歯を削られそうになったらよく相談し、気をつけて治療を受けてください。

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咬み合わせが変わったのでアダプターを作り直した

10年以上当院製のアダプターを使用しているプロホルン奏者(過去に何度かこのブログで紹介)が来院しました。最近特に低音域が安定しないということです。

3年位前にしばらくホルンを吹かなかったためアダプターが合わなくなって新しくしたのだけど、その後厚い方がいいような気がして、調整した古いものを使っているのだそう。低音域がうまく吹けなくなった原因は何だろうかと、模型をよくよく見比べると、何と開咬だった前歯の咬み合わせがほぼ直っていたのです。歯並びの変化としては上の左右1番が舌側に入っている。
開咬は直した方がよいとは思ったのだけど現役音大生からそのままプロ奏者になってしまい、ずっとアダプターで開咬を補正して吹いていたのです。開咬が直ったのに、厚いアダプターを使っていたので、下唇を密接させることが難しかったのと、下顎を前に出せなかったので、低音域が不安定になったと思われます。新しい咬み合わせに合わせてアダプターを作り直しました。以前の物より半分以下の厚さだと思います。

子供の場合、矯正器具を付けなくてもトレーニングや呼吸の改善で直ることはありますが、成人の場合でも、直ることもあるのですね!特にトレーニングを当院ではやっていませんでしたが、数年前に扁桃腺の手術をしたということで、呼吸と舌位が良くなったからと考えられます。

12年前(前後的に開咬になっていて厚いアダプターを使用)

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現在(開咬が改善し薄いアダプターを使用)

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歯並びや咬み合わせは大人になっても変わることがあるというお話しでした。 

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目指す治療ゴールはいろいろ(2)

横顔の数値で一般的なのは鼻とアゴの先を結んだライン(E-line)に対して、口唇の位置が理想的には上唇が1mm内側、下唇が線上であり、通常それを目指すのだけど、オトガイが小さければラインが後ろに来るので、歯を必要以上に内側に入れないと達成できない。

E-lineからの口唇の位置はそこそこに、楽に口唇閉鎖できることを目指し、楽器演奏を考慮して治療した例をお見せします。患者さんはプロのオーボエ奏者。普通に仕事しながら矯正治療を受けていただきました。

治療前

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治療後

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治療前後の口元の変化

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・E-lineから口唇が少しだけ前に出ています。さらに抜歯をすれば下げることは可能だったかもしれませんが、オトガイが後退しているので、口元のバランスとしてはこの方がむしろよいように思います。

・抜歯は上の小臼歯左右1本ずつのみとし、上の親知らずは抜かずにコントロールしました。矯正歯科医は親知らずを無条件で抜歯してしまう人が多いのですが、萌出している上の親知らずを抜歯した後にアンブシュアに影響が出て不調になる管楽器奏者がいますし。

・前歯の被蓋は少々浅めになりました。理想的には2mmくらい被るように直すのですが、これ以上深くするためには前歯を挺出させる必要があり、鼻の下が長くなるとアンブシュアに悪影響の可能性があるため、浅めで終わりにしました。

 

こんな感じで私は管楽器奏者に対して配慮した治療方針を考えています。演奏の邪魔にならぬようメタルの小さいブラケットを使ったり、最初半年前歯に装置を付けずに犬歯を引いたり、治療方法にも配慮しています。管楽器奏者の方のほとんどにMFTもしています。

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目指す治療ゴールはいろいろ

矯正歯科医によって目指す治療ゴールはいろいろである。残念ながら。

プロ・クラリネット奏者が相談に来た。他院にて、小臼歯を4本抜歯して唇側ブラケット装置を付けての本格的な矯正治療を行っており、もうすぐ終了と言われたが、今吹きにくいのはどうなるのだろうと心配になったとのこと。前歯が咬んでいないということもあるが、上下の前歯が立っていて標準値よりも20~30度くらい内側を向いている。これは吹きにくいだろうなと思った。
いろいろ話をして主治医と相談してもらうことになった。もし当院で引き継いでとなると前歯を唇側に出してスペースを残すことになるだろう。結局治療元で少々の調整をして器具を外したのだと思う。一度スッキリしていただき、その後何かあれば考えるということで。
矯正治療をする際には分析(セファロ分析といって骨格や歯の角度・位置などを数字にする)をして治療方針を決めるのだが、骨格は手術でもしない限り変えられないので、すべての数値を標準値にすることは難しい。この人は小さい下顎とオトガイなのに、横顔の数値を標準値にするために前歯の角度が犠牲になってしまった。その主治医はとにかく横顔のラインを主眼に治療をしたのだろう。私だったら歯の位置を標準にして、オトガイが小さいから横顔のラインはそこそこに楽に口唇閉鎖できることを目指しただろうな。

フルートを勉強している音大生が相談に来た。他院にて、非抜歯で下顎歯列のみの矯正治療を行っていた。上顎歯列はノータッチで下のみブラケット装置だけというのは吹きにくい。下の叢生を改善するために広げて下顎の前歯が唇側に傾斜して、さらに吹きにくかったと思う。いろいろ話をして当院で治療を行うことになった。上下小臼歯を抜歯して、普通に上下唇側ブラケット装置を付けて治療をしている。
世の中には「歯を抜かずに直す」ことを重要視する歯科医が割と多い。本来抜歯のケースを無理に抜かずに直すと、歯は前に傾斜しかみ合わせが浅くなり口唇が閉じにくくなる。多くは楽器が吹きにくくなるが、その歯科医にとっては抜かずに済んだということが大事なのだ。

どの歯科医院でも歯並びを治療すれば吹きやすくなるとは限らないのでご注意ください。

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「日本人に合うマウスピース」で使用されている写真

「日本人に合うマウスピース」というのが話題になっているが、日本人は西洋人と歯がちがうということを表すためにそれぞれの典型例として写真が使用されている。

 ●ヒーロンホルンマウスピースレンタスサービスHPより
https://www.hiiron.com/mouthpiece-suitable-for-japanese/

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●パイパース2021年8月号22ページより

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●両方に共通して使用されている「西洋人の歯」は5歳くらいの写真である。全部乳歯だが、乳歯は小さくて当たり前だ。出典はブラジルの歯科矯正の論文で、子供の上顎前突の治療に関するもの、該当の写真は「乳歯列の軽い2級不正咬合の例」として載せられている。HPの「日本人の歯」は同じ論文の「混合歯列初期の軽い2級不正咬合の例」で前歯は永久歯である。
https://www.scielo.br/j/rounesp/a/vdc7vf6XyVKLNhQLHxQxxTj/?lang=en

●パイパース誌の「日本人の歯」は個人の矯正歯科医院のHPで小臼歯4本を抜歯して治療した上下顎前突の例の治療前の写真であり中学生くらいの女子。全部永久歯。

●両方に共通して使用されている「西洋人の顔」は、3D画像処理を施した架空の顔であり、Averageから加工がされている(多分口元を後退させオトガイを出している)。顔を画像処理してパターンを複数作ってアンケートするというのは矯正歯科でよくある研究手法である。

https://www.semanticscholar.org/paper/Which-facial-profile-do-humans-expect-after-seeing-Schumacher-Blanz/da358819ea1c984c976cdcdd472353e0dd1259dc

●「日本人の顔」として使われている写真は調べてはいないが、少なくとも歯の写真とは別人であり、特にパイパース誌の方の写真は、外科矯正の対象になるほどで典型的な顔とは言えない。

日本人と西洋人の標準的な歯や歯並び(角度など)にはあまり違いはないという認識である。大きく違うのは鼻の高さとオトガイの大きさ、前後的な奥行きである。だから口元が凹んで見えるが必ずしも歯が内向きわけではない。
しかしながら不正咬合の種類や頻度(特に日本は口呼吸に関連した不正咬合が多い)、矯正治療を受けたかどうか(日本は欧米に比べ治療を受ける子が少ない、特に吹奏楽部)、管楽器専門教育を受けるチャンス(日本は歯並びが向いてなくても勉強できる)などで違いはあるだろう。
でも歯や咬合は個人差であり「日本人だから」ではない。意図的かどうかはともかく、典型ではない写真を紛らわしく使用するのは間違っていると思う。

 

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先人の考えたトランペットによい前歯

23年前(私が開業する少し前か)に横須賀のN先生の所で前歯を治療をしたというアマチュアのトランペット奏者が来院された。
上の前歯2本がハの字に捻じれていて、吹くと口唇に当たって痛いため、神経を抜き補綴物にしたということ。中央をV字に削ったのはハイトーンが出やすくなるというN先生のおすすめだったとのこと。

治療後、今度は歯の先の方に口唇が食い込んで跡がつき痛い。その23年前からずっと疑問に思いながらトランペットを吹いていたとのこと。ご本人としては歯が短いために上唇が歯に刺さってしまうと考えていて、前歯を2~3mm長くしたいというご希望だった。
前歯の長さはたしかにもう0.5mmくらい長くてもよいかと思ったけど、歯が短いことが上唇に歯の跡がつく原因とは思えない。それよりも中央の削ったところの方が気になる。

少々長くして、私の思う中央の隙間の形を作ったところ、痛みはなくなり、音色も変わった。
おそらく、中央はスパッとV字に削っただけで角張っていたので、そこに口唇が食い込んでいたのだと思う。音色に関してはV字の隙間が大きすぎると息の圧力が下がり柔らかい音になってしまうのだが、塞いだことで適度な抵抗感が生まれハリのある音色となった。吹いたときの違和感はあるが数週間で慣れてくると思います。

初診時の写真

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上の前歯2本をレジンで形態修正した後

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(下の前歯の歯石についてはご本人に伝えてあります。)

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受験直前のクラリネットアダプター

今年の音大受験は動画提出も可とのこと。動画撮影を1週間後に控えたクラリネットの受験生がアダプターを試したいと受診しました。お母さまが当院のyoutubeを見てご連絡くださいました。
口に力が入ってしまい音色が硬くばてやすいのがお悩み。歯並び自体は悪くないし前歯も傾斜していないのだけど、咬み合わせが深いタイプの上顎前突。演奏時のレントゲンを見ると下顎を必要以上に前方に出して吹いており、下唇がめくれて厚みを作っている。

昔は上顎前突用に下顎前歯唇側全体を被うタイプを作っていたこともあるのだけど、そうすると下唇に無理がかかるため、通常のタイプの木管用アダプターを作製した。
調整していて思ったのは、きちんと咬合調整をすることは大事だということ(明らかにミスが減る)。さほどアダプターの安定が悪いわけではなかったけど、よりピッタリにするために内面を一層削って口腔内でレジンを硬化させた。これをすると音が変わる。下唇を自然にまいたアンブシュアとなった。

まだ若いのに、口のことアンブシュアのことしっかり考えて理解していて偉いなあと思ったのでした。

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クラリネット演奏時       咬合時


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アダプター  

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アダプター装着時の写真

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ファゴットのアダプター

ファゴット演奏時に下唇に歯が当たって痛いというご相談。歯並び的には矯正治療を勧めたいところであるが、音大を卒業して1年目で勉強を続けており、これからオーディションやコンクールにトライしていこうという時期である。アダプターを試すこととなった。

当院で通常作製している木管用アダプターでは、かえって上下のバランスが悪くなると考え、軟らかいシートを加圧形成器を使って圧接して作製した。厚さは1mmと2mm。(圧接により実際はもう少し薄くなる)
1mmでも口唇の痛みには効果があるが、2mmの方が音が良く太くなる感じ。本人もその方が良いと感じている。シートの分歯が長くなり演奏時の口腔内が広くなるためと思われる。(あとはタンギング等とのバランスもあるので、適切な厚さは人によるのだと思う。)

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咬合時             前歯は叢生、左右非対称
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アダプター装着時        アダプター(上が1mm,下が2mm厚)

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インビザラインをはめて吹くか

最近はインビザラインが普及していて、テレビに映る芸能人でもこの人してるなという人を見かけるし、一般的になっているんだと思う。インビザラインとは取り外し可能な治療方法であるマウスピース型矯正装置の中でも世界的にシェアの大きいものである。

管楽器をよく知らない歯科医師は、インビザラインなら管楽器が吹けますよ、と言うのではないかと思う。実はインビザラインは120時間使用、2週間ごとの交換を前提に設計されているはず。しかし講習会などでは、患者さんに20時間を守ってもらうために22時間と指示をするべきと言う先生も多い。頑張れば20時間使用しても2~3時間練習できるけど、さすがに22時間はめないといけないとなると練習できないから装置を着用したまま吹かざるをえない。また、交換を7日あるいは10日にするのが一般的になってきていることもあり、毎日22時間使うよう歯科医院から強く求められる(怒られる)だろう。

私のところではどうしているかというと、基本ははめたまま吹くことを勧めないが、試しにはめたまま吹いてみてくださいと言う。当院では多くのプロ奏者(プロオケ正団員もそれなりにいる)のインビザラインやそれ以外のマウスピース型矯正装置を使って治療を行っているが、結果ほとんどの人が外して吹いている。プロオケ奏者は使えるのは115時間くらい、忙しいと15時間も難しい。音大生で頑張って18時間平均というところか。私は使用時間を長くするようリクエストする代わりに交換頻度を下げる。つまり毎日20時間確実なら10日ごとの交換のところ、18時間ならば2週間、15時間ならば3週間としている。管楽器奏者は、むしろゆっくり直したい(アンブシュアを適応させるため)という人もいる。

インビザラインの厚さは約0.5mm。裏表に少々の空隙(いつもぴったりとは限らない)を加えてすべての歯が1mm以上厚くなる。0.5mm歯が長くなるので、同じ位置で楽器をくわえたり(リード木管楽器)、同じ歯の隙間を作る(金管、フルート)ためには1mm以上顎を開く必要があり当然筋肉のバランスが変わる。歯の切端の形は金管楽器を吹くうえで重要だが、それも被われてしまう。当院で、はめて吹いているという人はクラリネット数名とホルン1名のみであった。

早く歯並びを直したいがために覚悟を決めてのインビザライン使用での演奏と思う。確かにクラリネットでは影響は少ないとは思うが、歯が1mm長くなるのと同じなので口の中が広くなりタンギングがうまくできないという人もいた。金管の場合、吹けなくはないが音色が変わる、それを許容範囲と思えるかどうかである。柔らかいぼやけた音になる。少なくとも私には無理と思った。金管のアタックは、口唇のアパチュアの開閉である。つまり舌から口唇までの距離が1mm長くなるので同じ感覚で吹くと音の反応が遅くなる。切縁を被い角が取れ隙間が塞がれると、息のスピードが単調になり、華やかさ煌びやかさがなくなるのだろう。当院ではフルートではめて吹く人はいないが、フルートでは金管楽器と同じ様なことが起こるのではないかと想像している。

(上級者向けの話です。そこまで気にしない人はどうぞはめたまま吹いてください。)

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