April 09, 2018

上顎前突のアンブシュアのタイプ(金管)

どうも上顎前突の金管楽器には2種類のアンブシュアが存在しているようである。

一つは上の前歯の唇側面にリムが乗るアンブシュア(水平タイプ)で、もう一つは上の前歯の切縁にリムが乗るアンブシュア(下向きタイプ)である。乗る乗らないといっても口唇が介在するわけで、リムの支点とでもいえばよいだろうか。
一般的に上顎前突とは、臼歯で噛んだとき上の前歯と下の前歯の前後的な位置の差が大きい状態(正常は2~3mm)をいうが、多くの場合は上顎前歯が前に傾斜しており、さらに下の前歯も傾斜している(上下顎前突)ことも多い。日本人によくあるパターンの咬合である。

顎を楽に開けた状態で上下の前歯が一つの平面になるのが、ある意味金管楽器を吹くのに理想的と言ってもいいんじゃないかと思う。この場合は普通に上の前歯の唇側面にリムを乗せることが可能である。

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しかし上顎前突ではそうもいかない。下顎を無理に前方に出して上の前歯の唇側面に乗せるか、下顎は楽な位置で上の前歯の切縁に乗せるかどちらかになるのだと思う。
ちなみにトロンボーンなどではリムが大きいので下顎を出さなくても唇側面に乗るためか、トロンボーンで後者のタイプの人にはあまり会ったことがありません。

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(上記の図は同じ歯の傾きにしてあり、水平タイプは下顎を前方に出し、下向きはあまり出さずにアンブシュアを作ったときを想定して書いています。下向きタイプの図の点線は側切歯で、側切歯の切縁辺りに乗ることになるかと思いますが、リムの大きさや当て方によってはその限りではありません。)

上顎前突の2つのアンブシュアパターンにはそれぞれ利点欠点があるのだが、レッスンについたり専門的に学ぶ過程で、唇側面に乗る水平タイプに直されて、かえって元々の奏者の良さが消えてしまうことも多々あるのではないかと思う。
矯正治療をする上での注意する点としては、元々下向きタイプの人が上顎前突を改善すると思うように吹けなくなってしまうことがあるので、是非矯正治療中もコンスタントに楽器の演奏を続けてもらいたいし、矯正治療の時期も考慮した方がよいこともあると考えている。

注:便宜的に水平タイプ、下向きタイプとしたが、全くの水平とは限らないし極端に下向きでもないです。

つづく

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April 06, 2018

管楽器奏者の筋機能療法(MFT)(3)

口腔筋機能療法の概要については、もう20年近く前に「管楽器奏者の歯のためのページ」に掲載してアップデートしていない(レッスン2でとまっている)のだけど、まずそちらを読んでいただきたいと思います。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~ohara/muscle/mft.html

舌突出癖、低位舌、口唇閉鎖不全であれば、不正咬合と関連し、きちんとプログラムに沿って指導を受けてトレーニングすることをお勧めしたいが、中には正しくはこういうものだということを知るだけでも舌位が改善する人もいなくはないのでお伝えすると、何もしていないとき「舌は口蓋(ウワアゴ)に付け、歯は噛まずに開いて、口唇は閉じて鼻で息をする」をまず実践してみてほしい。

アンブシュア強化のためのトレーニングとして3つ紹介したいと思う。

1)ボタンプル:直径2.5cm程度の薄いボタンを用意し、タコ糸のような紐を通します。前歯と口唇の間にボタンをはさみ紐を前方に引っ張ります。基本は臼歯は噛んで紐は水平なのですが、アンブシュア強化には臼歯は少し開けて紐は少し下向きの方がよいかもしれません。応用としてはボタンを2個用意して左右に引っ張るのも効果的です。
主に下唇が下顎歯列に密着する力を強化します。音質の向上につながり、いわゆる「下あごを張れない人」にも効果があります。

2)風船トレーニング:一般的に手に入る普通のゴム風船を用意します。これを手を使わずに膨らませます。吹き口がロールしていてここに前歯を引っ掛けると簡単ですが、あえて引っ掛けずに口唇だけの力で保持します。一息膨らませたら口唇を閉じたまま鼻で息を吸ってまた膨らませます。
主に口唇を閉じる力を強化しますが、頬筋や呼吸のトレーニングにもなると思います。息漏れの解消や音の安定につながります。

3)オープンアンドクローズ:舌全体を上顎に吸い付け口を大きく開けて舌の下のヒモを伸ばします。次に吸い付けたまま奥歯を噛みます。開いたり噛んだりをゆっくり繰り返します。
注意点としては、舌の先が上前歯のすぐ後ろにあること、舌の前の方だけでなく後も吸い付いていること、舌が上の歯を覆わず上の歯列の内側に収まること、左右対称に吸い付けること。また、口を開けるときは、下顎が前に出たり横にズレたりせず、まっすぐ開けます。
アンブシュア強化のためには舌後方の脇を意識するとなお良いと思います。主に舌を挙上する力を強化します。ダブルタンニングや息のコントロール(特に高音域)に効果があります。

これら3つの力は、金管楽器だけでなくどの管楽器にも必要な力でしょう。
正直いうと私自身は基本は楽器の練習の中で筋肉を鍛えアンブシュアを作るべきと思っていますが、元々足りない人には効果があるかもしれません。私はときどき風船トレーニングをやっています。

※個人の感想であり、効能を確約するものではありません。。。

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April 03, 2018

管楽器奏者の筋機能療法(MFT)(2)

管楽器の演奏を始める年齢は、日本の場合圧倒的に中学生からが多く、早くても小学4年生なのではないかと思う。弦楽器やピアノに比べ開始年齢の遅い管楽器に対し、早期教育の必要性が言われ始め、「東京芸大早期教育プロジェクト」などいろいろな試みがされているようである。

日本人が管楽器演奏で大成しにくい原因として、言葉の違いがあるのではないかと聞く。日本語はドイツ語などに比較して、口唇より上の筋肉や舌後方の筋肉などをほとんど使わない。こういった筋肉が金管楽器演奏には重要なのだと。ドイツ人などは管楽器を勉強する前からこういった筋肉が発達するから、苦も無く良いアンブシュアを習得できるということらしい。だから、単に早くから専門家によるレッスンを受けるだけではなく、正しいアンブシュアの習得と、そのための筋肉のトレーニングが必要ではないかということである。

私が思うに、日本人の場合、口を閉じる、咀嚼する、嚥下するといった機能自体に問題がある子供の割合が多すぎる。おそらく欧米人の比ではないはずである。だが、それらの機能が弱くても生活は出来るし食事できるし日本語は話すことができるので、あまり問題にならないまま成長することが多いのである。管楽器の早期教育を考えるのであれば、まずはそういった日常の口腔機能を正しく行えるようにすることがまず大切なのではないかと。

歯科矯正での早期治療(多くは7~10歳くらい)については、効果が無いというエビデンスを元に、永久歯列完成後(12歳以降)に治療を開始すべきという方針の医療機関も残念ながら少なくはないようである。そんなことはない、早期治療をやるべき子供はたくさんいる。適切な時期に治療を行い口腔筋機能療法を行うことで、管楽器演奏にとって良い条件へ導くことはできるはずである。早期治療で良い効果が得られれば、永久歯列完成後の矯正治療をせずとも良い歯並びにすることができる。中学高校で始めると矯正装置自体が足かせとなり、矯正治療をあきらめるか管楽器をあきらめるかという選択となることも多い。早期からの管楽器教育を受けさせるのであれば、ぜひ歯並びや嚙み合わせも早めに問題解決した方がよい。

つづく

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March 13, 2018

管楽器奏者の筋機能療法(MFT)(1)

口腔筋機能療法とは、咬合不全の原因となる舌前方突出、低位舌、口唇閉鎖不全などの習癖を除去し、口腔周囲筋の機能を改善して習慣化するためのトレーニングである。日本で行われている方法は、アメリカで開発され日本には1980年頃から広まり現在では多くの矯正歯科で用いられている。
アメリカでは専門のセラピストがオフィスを持ち、矯正歯科医はそこに依頼してトレーニングを受けてもらうというが、日本では矯正歯科医院で歯科衛生士が行うのが現状である。
当院でも歯科衛生士さんに講習会で勉強してもらいMFTをやっている。本来トレーニングフィーを患者さんから徴収すべきだろうが、患者さんがもし希望されなかったらと思うと、つい治療費に含めて(追加料金無しで)行っている。歯磨きをちゃんとしてくるとポイントがもらえる制度を作ったところ、それまで歯磨き指導と歯面清掃に費やされていた分の時間をMFTにまわすことができ、当院では半分以上の患者さんにMFTをしている。実際ちゃんとMFTをするとバシッと噛んでくることが多い。矯正治療が順調に進み治療後も安定をするというのが診療におけるMFTの目的である。

では管楽器演奏をしてる患者さんにMFTをどうしているかというと、以前は正直あまり行っていなかった。大昔の研究論文に管楽器演奏が口腔機能向上の役に立つというのがあり、管楽器を演奏することで機能的な問題はないだろうという先入観があった。また、管楽器奏者には口の周りの機能に自信がある人も多少いて、あまり勧める感じでもなかった。

現在はというと、やはり半分以上の人にMFTをやってもらっている。
口腔周囲筋の機能と歯並び咬み合わせは密接に関連している。開咬など主に機能的問題で発生する不正咬合の人は、管楽器を習得しても口腔の習癖を残していることが多いし、管楽器奏者には開咬でなくても低位舌や口呼吸の癖がある人は多いように思う。舌癖はさほどでなくても、治療により変化してきた歯並びに適応するため、あるいはより機能を強化する目的にMFTを希望する管楽器奏者は多い。

もちろん日本の気候や住宅環境、顔面構造により鼻炎などが原因で口呼吸を起こしやすい民族なのではないかと思うが、管楽器演奏が口呼吸を誘発するといわれている話を数年前に書いた。
管楽器演奏は口呼吸を誘発するのか(1) (2)

管楽器演奏するとすべて口呼吸になるわけではないけど、なりそうなボーダーな状態だと場合によっては管楽器演奏が引き金となり口呼吸となり低位舌となるのかなという気がする。管楽器のプロ奏者を見ると、歯並びがあまり悪くなくても口呼吸、低位舌、歯軋り、楔状欠損という人が多いように思う(私の個人的な感想であり統計をとったわけではないです)。口呼吸の習慣が付いたのが歯列完成後であればそのようなことになるし、完成前の小学生くらいから管楽器を始めると開咬など引き起こすこともあるのかもしれない。

つづく

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December 08, 2017

歯の形は変わる、歯並びは変わる

この前15年前の自分の口腔模型を見つけて、現在の模型と比較をしてみて、意外と変化していることがわかった。上の前歯の内側が少し咬耗し、上の前歯の長さが少し短くなり、下の歯列の正中のずれがほんの少し大きくなっていた。どれもほんの少しではあるが、へ~~っと思った。

歯の形は変わる。例えば歯軋りなどをして歯に負担がかかると、歯は磨り減ったりカケたりする。歯頚部あたりに楔状欠損が起こることもある。もちろん虫歯等で歯の治療をしていれば元の歯とは違う形になる。私は自分では歯軋りなどしているつもりはないのだが、普通に過ごしていても歯は僅かずつ短くなるのである。

歯並びも変わる。昔読んだ論文によれば、咬合するとそのたびに歯が近心傾斜する方向に力がかかるそうだ。つまり長い年月のうちに奥歯は前方に移動し、そのしわ寄せを受けて歯は前に出るか叢生になるということになる。
経験的には、これは個人差があるように思う。最近聞いた話によれば、ドリコ(下顎が急傾斜な顔面骨格パターン)だと起こりやすく、ブラキ(下顎がガッチリした顔面骨格パターン)は起こりにくいということらしい。なるほど臼歯にかかる咬合力の方向を考えるとそうなるのであろう。
歯軋りや食いしばりで臼歯が磨り減る、また虫歯治療を繰り返すうちに臼歯が低くなるなどしてやはり前歯が前に出たり叢生になったりする。歯の治療方法(材料)よっては、余計磨り減ることもある。臼歯の欠損によってさらに顕著に起こる。これは上記のように自然に歯が前に移動してくるよりも大きな変化と思う。
また、成長は終わっても、歯並びに影響を及ぼす習慣は他にもある。多いのは舌突出癖。若いときは問題がなくても、中年になり歯周病によって歯の支えが弱くなると舌の影響を受けやすくなる。前歯が出てきて隙間も出来る。うつ伏せ寝で顔を横向きにしていると下顎に横から自重がかかり歯並びは歪む。などなど。

さて、それではどう対処すればよいかである。
起こるべき変化であれば、それに合わせてアンブシュアを適応させていく、あるいは道具を合わせていくということだろうか。例えば金管であればマウスピースのボアを大きくするとか。
何らかの原因があり必要以上に変わってしまったら、歯の形を元に戻すことも可能なこともあるだろうし、アダプターが助けになることもある。また、変わってしまった原因があれば、それを取り除く。調子のよい時の口腔模型を保存しておく、ナイトガード(歯を守るためのマウスピース)などを寝るときだけ使用するというのも良い対策と思う。

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November 24, 2017

アダプターの溝

当院を開院してすぐの頃からアダプターを作成し使っていただいていたユーフォニウム奏者が、最近来院した。最初は音大生であったが、15年以上経った今もユーフォの演奏を続けている。何度か作り直したり調整したりした。最初は私も手探りだったので、左右対称のつるっとした物から、上顎の前歯の非対称な並びに合わせたりしながら試行錯誤をした。

3年ほど前に「自分の歯で吹こう」と思い立ち、それからアダプターを使わないで吹いていたのだそうだけど、やはり吹きにくく、でも前のアダプターは入らないし不満もあるしということで、新しいものを作成した。
以前、アダプター表面をリアルな歯の形にして音質が変わったという話を書いたのだけど、彼女はそれを読んでいて、私のにもそうしてくださいというご要望。正直言うと、それを作るのはとても手間がかかり(歯並びの凹型を作ってレジンを流し込んだ)3万円もらってもやりたくないと思っていたので、迷ったのだけど、アダプターを使って吹くと周囲から音が浮いてしまうのだということで、しぶしぶすることにした。

やってみれば5分もかからず、溝を入れただけなので見た目あまりリアルではないが、音は激変。通常のアダプターだとメローな、おそらく不整倍音の少ない音質(それがユーフォらしさかと最初思った)だったが、溝を入れたところ、芯もありハッキリとした、でもユーフォらしい音となった。アダプターなしだと歯並びが悪いため更に不整倍音が増えるのか少々雑味のある音質なので、これだったら絶対アダプターありの方が良い音で、しかも吹きやすい。

アダプターの表面を歯並びのようにすることで音質が良くなるのは、ホルンでは起きても、もしかしたらユーフォのようなマウスピースの大きい楽器ではそれほど変化しないのではと想像していたのだけれど、むしろホルンよりも変化量が大きかったのでした。

アダプターを入れた状態。上の前歯とバランスが取れている。
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通常は上下前歯の被りに左右差がある。
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November 23, 2017

管楽器奏者とマウスピース矯正(4)

アソアライナーを2ステップ使用したところで、インビザラインで自分の歯並びを動かすことにした。目的は前に書いたが、演奏時の上下の歯並びのバランスを整えることである。歯のバランスがよい顎位で吹こうとすると私の場合、左にずれている下顎をさらに左にずらすことになり、そうすると左側の下唇が前に出る(上唇に被る)アンブシュアになってしまう。だから、下顎歯列が右に戻るようにしたいのである。

インビザラインは一般的にアタッチメントといってレジンの突起を歯に接着する必要がある。聞いたところ、アタッチメントなしでも発注できるということで、アタッチメントなしにしてみた。アタッチメントの役割としては、装置を保持させ、歯を三次元的なコントロールをすることと思うが、とりあえず無くても装置はきちんとはまり機能はする。もちろん捻転とか挺出とか歯根のコントロールとかアタッチメントが必須なこともあろうが、場所によっては管楽器演奏に影響が出るものなので、なくてもよければそれに越したことはない。

9月10月と本番が続いたのでインビザラインは使わないでいたため、使い始めてまだ1か月半ほどであるが、装着感や歯の痛みなどに関していうとアソアライナーより快適である。ただ、必要な装着時間がアソアライナーに比べて長く、一応1日20時間の使用が義務付けられているのが難点であるが、結構おさぼりしていてもそれなりに動くので、その分使用期間を長くするなどして対応できると思う。ただしシビアなケースではちゃんと使った方がよいとは思う。金管奏者でむしろゆっくり動かしてアンブシュアを少しずつ適応させたいときなどは、1ステップでの移動量を少なくしてストレスなく使うのも手である。

ということでまとめると、私のおすすめとしては
・歯列全体を動かす必要があるときは、インビザラインがよいだろう。
・ただし、歯並びの状態によってはインビザラインだけの治療だと治療期間がとても長くかかることがある(あるいはきちんと直らない)ので、固定装置をうまく併用すると良い。
・部分的な矯正、移動量の少ない場合でも、インビザラインの方が通院頻度や装置の快適さの面で患者としては楽である。ただし枚数が少ない場合はコストがインビザラインの方が高くなるので、アソアライナーの方が治療費を安くできる。
・毎回どう動かすか、吹きながら軌道修正する必要があるときはアソアライナーがお勧めである。ただ、1ステップの移動量が大きいので、新しい装置に交換した直後はしばらく歯の痛みや吹きにくさが出る可能性が高く、演奏活動と上手く付き合う必要がある。例えば吹き始める少し前から装置を外すとか、装置交換の時期を考慮するとか。
・いわゆるマウスピース矯正は、インビザラインやアソアライナーの他にも多くの会社が参入しており、いろいろなものがある。まずは矯正歯科の専門医院で相談することをお勧めしたい。一般歯科(普通の歯科医院)でよくわからなくても丸投げで治療ができるシステムもあるし、インビザラインだから安心というものでもない。とはいえ、矯正歯科専門医でもマウスピース矯正については温度差が大きく、否定的に思いつつもしかたなく使っているという医院も少なくない。まずはよく話してみることをお勧めしたい。

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October 24, 2017

管楽器奏者とマウスピース矯正(3)

数ヶ月間自分でアソアライナーを使用してみて、3回ほど壊滅的にホルンが吹きにくくなった日があった。おそらく原因は、上下前歯の関係によって上下唇の被りの加減が変わったこと。具体的には、アンブシュアを作るべく上下の前歯をそろえた時、ほんのわずか(探針ひっかかる程度)下の方が前に来ると、途端に吹きにくくなったのだと思う。
切端位での上下前歯の関係を考慮してセットアップしたアライナーではあったが、移動の過程で一時的にそのような段階になった、あるいは楽器演奏によるプレスでわずかに上顎前歯が内側に入りそのような状況となったのだと思う。

大切なことは、治療中の歯が動いている過程で、吹きにくい歯並びになることを避けることである。特に金管楽器では上下前歯の位置関係は重要である。ゼロコンマ何ミリかの違いで吹きにくくなる。

そのようなことが起こらぬよう、毎回のセットアップ状態を確認し、吹きにくい状況を作らないことが管楽器奏者をマウスピース矯正で治療する上で大切なことと思う。それでもどうしても起こりうるので、毎日のウォーミングアップに時間をかけ、アンブシュアを調整し直すことが必要だろう。

アソアライナーは毎回模型上でセットアップするので、その確認がしやすいが、技工所の担当者のよって正直セットアップの出来が違うのが難点(リカバリーは可能)。1回のセットアップでの移動量が0.8mm程度であり、最終的にセットアップ通りに近づくまでの過程の歯の動きは均一とも限らない。
その点、インビザラインは1回のセットアップでの移動量が0.25mmなので、そういった不均一な動きは起きにくいと思う。インビザラインは最終の仕上がりは術者が調整できるのだが、その過程はシステム上決まってしまう。でも確認は出来るし、ある程度は動かし方のオーダーが出来るので対応はできると思う。

例えば前歯の叢生を直すのにはスペースが必要なのだが、そのスペースを得るために、歯を削る、歯列を側方に拡げる、前歯を前に出すのいずれかの方法をとる。歯を削るのも削りすぎると歯の形が変わりそれはそれで良くない。管楽器奏者であれば、側方に拡げつつ叢生を直し、必要以上に前歯が前方に出ないようにするのが良いケースが多いと思う。

少し前になるが、とある一般歯科医(=矯正を専門としてない)向けのマウスピース矯正のセミナーを受講してきた。歯の動かし方や難易度の判定など、共感できなかったので、その装置(名前は書かない)を使うつもりはないのであるが、前歯を一度前方に傾斜移動させてスペースを作って叢生を直し、余ったスペースを最後に閉じるという動かし方が基本のようである。金管楽器の人にはあまりお勧めできない装置と思った。

いずれにしても、マウスピース矯正の装置にはいろいろあって、歯の動かし方もいろいろなので、できればその辺を配慮して治療をしてもらえるとよい。

つづく

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April 12, 2017

管楽器奏者とマウスピース矯正(2)

マウスピース矯正にはいろいろな物があるが、ここでは「アソアライナー」と「インビザライン」について書いていきたい。オリジナリティ、現在の普及状態から、この2つが代表格と言ってよいかと思う。
一般的に、部分矯正をアソアライナー、全体的な矯正をインビザラインで治療することが多いのではないかと思うが、複雑な治療もアソアライナーでやろうと思えばできるし、インビザラインでも簡単な治療向けの製品も用意されている。

装置の大きさ:
アソアライナーは歯肉部分も被っている(通常歯頸部から2~5mm、上顎口蓋側は10~20mm程度か)が、インビザラインは歯のみを被う。なので、インビザラインの方が違和感は小さい。演奏している時に外す分には関係ないが、演奏中も装着するならインビザラインの方がよいだろう。最初からピッタリだし。
アソアライナーは最初は浮いた状態で使用するので、装置が長い分、唇・頬や舌に傷が付きやすいかもしれない。また、ステップにより厚さや浮き加減が変わるので、付けたままの演奏は適応しにくいのではないかと思う。

装置の使用時間:
アソアライナーは1日17時間以上、インビザラインは1日20時間以上の使用が義務付けられている。(ごめんなさい、当院ではアソアライナーは15時間以上と説明しています。特に支障はないです。)
問題は、通常は演奏時に装置を外すので、練習時間が稼げるかどうかである。専門学生は1日3時間は練習するとして、インビザライン20時間の装置使用のためには合計1時間で食事と歯磨きをすませる必要があり、ちょっと難しいかもしれない。実際、当院の患者さんの例だと、プロオケ団員で1日15時間前後、フリーランス奏者で1日18時間前後といったところ。その場合当院では1ステップの使用期間(通常2週間)を長くすることで対応しているが、それでも治療が進むと合わないところが出てきて、印象取って軌道修正(追加アライナー・リファイメント)が必要になりやすいように思う。
その点アソアライナーは、1日15時間だとハードルが低く達成しやすい。

アタッチメント:
インビザラインではアタッチメントといって歯面にレジンの突起を接着する。歯を捻転させたり圧下・提出させたり歯体移動(傾斜を抑えた移動)するためには必要となるが、歯しか被っていない装置の保持のためにも必要なので、アタッチメントなしというわけにはいかない。私は管楽器奏者にはなるべく前歯部のアタッチメントは付けない治療計画にしているが、歯の移動方向によってはどうしても必要となり、演奏時に痛みや傷の原因となることがある。その場合は角を丸めて対応している。アタッチメントは残念ながら歯の裏側にはオーダーできない。
アソアライナーは基本アタッチメントは付けない。挺出などの時はアタッチメントが推奨されていたが、アタッチメントの必要な治療はトレーもデザインも用意されているインビザラインの方が楽である。最近は捻転などアソアライナーだけでは治りにくいケースでは2Dリンガルブラケットの併用が推奨されている。

つづく。

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April 11, 2017

管楽器奏者とマウスピース矯正(1)

マウスピース矯正とは、薄く透明なマウスピースで歯を動かし、マウスピースを交換して少しずつ動かしていく矯正治療の方法である。アライナー矯正ともいう。15年前くらいから普及し始め、現在は一般的な治療法になりつつある。
取外しできるという点で、管楽器奏者にとっては福音的な治療法であるといえる。
しかしながら、すべての歯並びにマウスピース矯正が望ましいわけではない。ちょっとした叢生の改善やスペースの閉鎖などにはとてもよいと思うが、複雑な治療が必要な場合、治療期間がとても長くなったり、本当に直したいところが終盤にならないと直らないなど、あまり向かないケースもあると思う。もちろん固定式のワイヤーじゃないとちょっと直せないという歯並びもある。なるべく早く直したいという人には、固定式装置とマウスピース矯正を併用して治療期間を短くする工夫を私はしている。

マウスピース矯正には多くの会社が参入し、いろいろな製品が存在する。大きく分けて「アソアライナー」タイプと「インビザライン」タイプの2つがあると言ってよいかと思う。
アソアライナーは、模型上で直接歯を動かしたセットアップを作製し、それにシートを圧接する。1つのセットアップで強さ(厚さ)の違う2~3つの装置を用意して弱い方から使用する。最後の装置になったら再度印象を取り新たにセットアップして次の装置を作る。1回ごとの装置代は比較的安価であるので、歯の移動が少ないケースに向いている。一般的に前歯の部分矯正が主な対象となる。
インビザラインは、精密な印象を取り、それをコンピューターに取り込んで最終の歯並びまで計画し、最初から最後までの装置をコンピューター上で設計して作製する。様々な工夫で歯の3次元的な移動が可能となっているが、印象採得にコストがかかり装置作製費も高額なため、全体的に動かしたいケースに向いている。
どちらも1つの装置を10日~2週間使用して、次の装置に取換えてちょっとずつ歯を動かしていく。

アソアライナー
http://www.aso-inter.co.jp/aligner.html

インビザライン
http://www.hanarabi-smile.jp/mouthpiece/

次回はアソアライナーとインビザラインの違いについて、管楽器奏者目線でまとめてみたいと思います。

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