June 09, 2016

クラリネット演奏時の下顎のずれ

プロオケに所属するクラリネット奏者が来院しました。開口時に下顎がずれるというご相談でした。

10年以上前に顎の痛みで耳鼻科を受診し薬を飲んでよくなったという経験がありますが、顎関節の動きにより演奏に支障があると気が付いたのが1年前だそうです。具体的には、ブレスをしてアンブシュアを戻した時に顎位がずれて口唇が対応できないということです。顎関節の痛みや開口障害等はないということ。

咬合からも最初は顎関節症の範疇かと思いましたが、歯列模型と演奏時のレントゲンを見て原因がわかりました。

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模型を見ると下顎の前歯が斜めになっているのがわかります。前歯3本がほぼ直線に並び右側ほど内側に入っているのです。そして演奏時の下顎は左にずれています。この3本のところでマウスピースをくわえることで楽器が右を向き、演奏時には楽器の力が左方向にかかり、下顎がずれるのだと思われます。
前歯が左右非対称だから楽器がずれているのか、楽器を左右非対称で吹いていたら歯並びがずれたのか、どっちが先かはわかりませんが、おそらく両方が関係していると思います。

そこで、写真のように下顎前歯の前面が左右対称になるようにアダプターを作りました。厚さが左右で違うことがわかるかと思います。上から下までスムーズにアンブシュアが変わることなく吹けるようになり、よい結果になったと思います。

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June 06, 2016

金管楽器奏者の歯の固定

歯周病(歯槽膿漏)の治療の一つに歯を固定することがあります。固定をするには、ワイヤーなり接着剤なり何かを付けるわけで、それが管楽器(特に金管楽器)の演奏に支障を及ぼすことがあります。

先日来院されたのはプロオケ所属のトランペット奏者で、3年ほど前に演奏時に右上の1番(中切歯)がガクッと内側に動いたため、ワイヤーで前歯6本を固定されたところ、吹けなくなったのだそうです。その後、いろいろな歯科医院で固定方法を変更して現在にいたるのですが、アタックが出来ない、空気が溜り息が漏れる、マウスピースがうまく乗らない・・・という状況でした。
上顎の犬歯から犬歯の6本が固定されていました。おそらく最初はワイヤーをそのまま接着したのでしょう。別の歯科医院で舌側の隣接面をくりぬいてワイヤーを埋め込んだ。次の歯科医院ではワイヤーを外して充填用レジンで固定し、演奏時の息漏れを防ぐために鼓形空隙も埋めたのだと思います。その過程で隣接面は削られて行き、ご自分でも吹いて痛い部分の歯を削り、本来の歯の形からかけ離れていったのではないかと思います。

まず、その固定は本当に必要なのか、です。歯周病で歯槽骨がほとんど残っていない保存の難しい歯は固定することがありますが、その歯は亜脱臼して固定をしたのですから、固定は一か月もしたら外すべきだったのではないかと私は思います。おそらくトランペット演奏でかかる力から守る目的で固定を継続したのでしょう。確かに全体的に歯周病に罹患してはいますが、前歯部の歯槽骨吸収は臼歯部ほどではなく、実際固定を外した時点での動揺は大きくありませんでした。むしろレジンが歯肉の炎症を起こし、固定することで歯根膜の血流を阻害し歯周病を悪化させる可能性もあるのではないかと思います。
処置前の上顎前歯部の歯肉の色が病的に白かったのですが、固定を外して歯肉の色も良くなったように感じます。

演奏時のレントゲンを見ると、マウスピースの上下的位置は中央に近く、下唇が巻き込まれているのが特徴です。たまたま私は彼の所属しているオケの演奏会を録画しており、それが歯のトラブルの前の演奏でアンブシュアを確認したところ、マウスピースはかなり下寄りで、下唇はしっかり張られ安定していました。アンブシュアが安定せず混乱している状況ですので、レントゲンから現状を理解するだけでも効果はあったかと思います。

まずは固定された歯をセパレートし、付いているレジンを極力外しました。写真のように見るからに隙歯ですが、この時点で、既に吹きやすくなったのです。それから、本来の歯の形を想像して歯の形を作っていきました。
治療時間の都合と一度に多くの処置をするとわからなくなるため、1回目は中切歯2本を作りました。特に右側は薄くなっており、唇側面にもレジンを盛って厚みを調整しました。この段階でまだ空気がたまる感じがするということで、即席でシリコン印象材で歯肉用アダプターを試してみました。効果がありましたが、吹いているうちになくても大丈夫になってきたようです。

2回目は側切歯2本を作り、前歯4本全体の調整をしました。すべての隣接面がコンタクトするようにし、本来の歯の形にして歯質との段差をなくすようにしたため、鼓形空隙はあえて開けたままです。私は、鼓形空隙自体が息漏れを起こすのではないという考えですが、やはり開けたままでも息漏れや空気の溜りは起こしませんでした。最後は高音域がきついということで歯の切縁の角の形態を調整し良い感じになりました。
歯肉用アダプターについては、歯の形態が確定したら試す予定でいましたが、もしこのまま問題なく演奏できればなくても大丈夫と思います。歯肉&歯槽骨の退縮は経年的なものなので、アンブシュアがすでに適応しているでしょう。

2回目の処置の際には、2年前の歯列模型を持参していただきました。できれば3年前よりも前の模型があればよかったですが、十分に役にたちました。もしものときのために、皆さんも時々歯列模型を作ってもらうことをお勧めします。

当院初診時の前歯の写真
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レジンを外したところ(左)と中切歯2本の形態を回復し歯肉が下がった分をシリコンで補う
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前歯4本の処置終了
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初診時の演奏時レントゲン写真
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June 02, 2016

管楽器奏者への歯科治療の評価方法

1年ほど前になりますが、とある歯科大学で管楽器奏者の治療を手掛けているという歯科医の方が見学にいらっしゃいました。専門は補綴学で、数年前に開かれたInternational Educational Project for Embouchureの第一回学術大会にも参加したということでした。いくつか管楽器に関する論文も発表されていて、発音障害の治療に関する研究を応用して管楽器の方の治療にあたっているようです。

治療の効果があったかどうかを評価する方法として、音量の大きさを指標にする、つまり音が大きくなることを良い結果であるとするというお話でした。管楽器を演奏している私からすれば不思議です。音の大きさは簡単に変えることができ、簡単にいろいろな環境で変わるものであるからです。しかしながら、ff,mf,ppを各音で吹き分けられるかというのも指標にしているようで、それは良い評価方法かもしれませんが、日常の臨床ではどうでしょうか。

私は、アダプターや歯の調整の際に「良くなった」かどうかをどう判断しているかですが、一番は音質。音質といってもいろいろな意味があると思うのですが、明らかに良くなったという状態であれば、吹いている本人が笑顔になっています。こもっていた音が抜けるようになった、ビヤッと広がっていた音がまとまるようになった、アタックのきれいになったなど。それからアンブシュア。自然な良いアンブシュアになる。無駄な動きや無理な力がなくなる。アンブシュアが音の高さにより変わらずつながるようになる。楽に吹けるようになると細かいパッセージを突然吹き始めるようになる人もいるし、pが楽にコントロールできるかテストする人も多いです。ときたま音程、高音域がぶら下がらないか。などなど・・・

これらを客観的に評価する方法はないだろうか。その歯科医が見学に来た時にお話ししたのは、やるとすれば、周波数分布を調べることなのかなと。その楽器の音色には本来の周波数分布というのがあるのだから、それにいかに近づくか検証するのがよいかもしれません。
あとは術後の演奏時レントゲン写真で評価をすることもできるかもしれませんが、術前のレントゲンから得られる情報にくらべ、既に治療が終わり満足な結果となっているところでレントゲンを撮っても、その患者さん自身にとって有用ではないかもしれず、現在の当院では行っていません。

私が日頃経験するような、クラリネットの音色が境界明瞭になった感じとか、ホルンの音色に艶が出た感じとか、数字ではとても評価できない、耳と目と指先で行う職人的な仕事であります。
その歯科医はお聞きしたところ、ご自分はピアノ奏者で管楽器奏者の治療経験は5名ということでした。私の百分の一です。私も当院にいらしていただいた管楽器奏者の皆様のデータを何かの形で世の中に活かしていきたいとは思っています。

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June 01, 2016

前歯を再現する

前歯が折れて困っているというホルン奏者が来院されました。プロオケで活躍し定年後も教育や演奏活動をされており、今年もいくつか協奏曲のソリストを予定しているということでした。

元々神経の死んでいる歯だったのが硬い物を噛んで折れてしまったとのこと。それで慌てて指導先のアマチュアオケで木管楽器を担当している歯科医に診てもらい、レジンで修復してもらったのだそうです。それが約1か月前。そちらの歯科医院でいろいろしてもらったのだそうですが、どうにもならずに当院に来院されました。
私だったら、その折れた歯を瞬間接着剤でくっつけてしまうのですが、残念ながら前医で捨てられてしまったそうで、もし残っていたとしても、既に歯にレジンが付けられていているので正確な位置に戻すことはできないでしょう。

前医の処置の特徴としては(初診時写真参照)
・継ぎ足したレジンは両隣の歯につなげてある。
・無理に正中を合わそうとして前歯2本の大きさが違っている。
・舌側がくりぬかれて下の歯と当たらないようにしてある。
とても気持ちはわかるし、外れないようにという心遣いなのだと思いますが、両隣とレジンでつなげると、それだけで本来の歯の形と違ってしまいます。

レントゲンを見ると、演奏時の歯の開きが狭いことがわかります。アンブシュアも唇が余ったようになっており、レジンが下の歯と当たらないように薄くしてあるため、息の流れが太くなってしまい、歯を閉じて吹いていると考えられます。

そこで、まずは両隣とセパレートし、おそらく元の歯はこんなだったであろう形を想像して大まかに作り、あとは吹きながらの調整です。幸い20年前の歯列模型をお持ちだったので、ものすごく役に立ちました。ただ、歯が折れて前医で処置をして1か月以上経っているため、アンブシュアも変わって不安定になっている状態で、一度は良いと思った箇所も、やっぱり戻して・・・ということを繰り返し、調整に5回ほどかかりました。

初診当初は柔らかくそれはそれで良い音色でしたが、元々アレキ107をお使いだったことから想像する本来の音とはかけ離れていました。歯の形を戻すことで、華やかで艶のあるおそらく元々の音に近づくことができたと思います。もちろんアンブシュアもピタッとしました。
模型を参考にしても限界があり、後は吹きながらの調整が必要でした。ある程度の歯の形が整ったところで、音の移り変わりがスムーズにいかない箇所を直していきました。これは歯の唇側面の豊隆の具合の調整です。その後、高音域が当たりにくいということでいろいろ試しましたが、最終的には歯の長さの調整(=アンブシュアを作った時の上下の歯の開きが左右対称で均一であること)が効果があったようです。

20年前の模型を見ると、右の1番と2番の間に虫歯の治療時に出来たと思われる隙間があり、もしかしたらそれを再現すると、この方の個性的な音色を取り戻せるのではないかと考えました。しかし、ソリストを務める演奏会まで1か月となり、とりあえずこのままということに。

私が行う金管楽器奏者の歯の調整の基本は、本来の歯の形にすること。つまり、一般的な(解剖学的な)形であること、あるいはその人の元々の歯の形であることが大切だと思っています。

当院初診時の前歯の写真
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治療後の写真
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初診時の演奏時レントゲン写真
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March 02, 2016

親知らず用アダプター 続き

元記事はこちら2016.2.1

その後、何度かの来院で長くしたり短くしたり薄くしたり厚くしたりしました。その経緯をすべて記録してもしかたないので、このアダプターの調整の中から見えてきたことをまとめたいと思います。

親知らずのアダプターとしましたが、今回作製のアダプターには2つの要素があり、
1)抜歯した親知らずの代替
2)頬側の厚さの調整

1)親知らずの部分
形については、頬側・舌側とも、最初の物だと違和感があるということで、一度削ったのです。頬側は印象で取れているギリギリに設定し、舌側は上顎7番よりもわざと内側にしたのですが、それを削って6番7番の延長上に調整しました。
しかし、それだと息が抜けてしまいタンギングできないということで、戻しました。
金管楽器演奏時、舌後方の両脇は上顎最後方歯の舌側面に触れているけど、タンギングで奥の方の歯に押し付けていないと思うのです。(自分がそうだからといって多くがそうとは限らないのだけれど、むしろ舌後方を上に挙げることのできない人も少なくない。)だから、通常は親知らずを抜歯してもタンギングに悪影響が出ないと思うわけです。
おそらく、このチューバ奏者は特殊(というか素晴らしい)なのではないか。チューバなのに本当にクリアなアタックで、ご本人いわく「tatata」ではなく「kakaka」とタンギングをしているのだそうです。

2)頬側の部分
頬側の厚みがあると、口角がもっていかれるということで、可能な限り薄くし6番7番のみ被う形にしました。
しかしその後、ご自分で綿を詰めていろいろ試してみたところ、あった方が良い音がするということで、薄くしたアダプターはそのままに、犬歯まで被うアダプターを新たに作製しました。上下的には歯槽部に移行的にすることで良い結果となりました。
おそらく最初5番まで被ったので、3番4番とのギャップが大きくなり、口角が持ってかれた感があったのだと思います。移行的に広く覆うことで、むしろ口角が安定するようになったのでしょう。
チューバ奏者は、名奏者であっても頬に空気を入れた状態で演奏する人が少なからずあると思うのですが、この方は口角~頬を歯列に密着させて演奏するので、特に影響があったのだと思います。アダプターなしだと、もちろんそれはそれでよい音ではありますが、明るく広い感じで、アダプターを入れると深く境界明瞭な音になりました。

ではなぜ、このように効果があったかなのですが、成人した後に歯の形態および歯槽骨の形態が変化してしまったからと思います。それは楔状欠損と外骨症です。
少々小臼歯部が舌側傾斜しているように思いますが、それが成人後の変化なのかどうかはわかりません。若い時の模型があると良いのですがお持ちではなかった。チューバ演奏で歯列が内側に傾斜する可能性はあるとは思うのですが、もし演奏の影響でだんだん内側に入ってきたとすれば、そのあおりで前歯に何らかの叢生が現れると思うのにそれはないので、元々このような歯列形態だったと思います。演奏時の歯列頬側の筋肉活動はかなりなものとは思いますが、口腔内の圧力も高まっているので、歯にかかる力自体はプラマイゼロではと想像しています。(実際にプロ奏者では小臼歯部にかかかる圧力がゼロという結果が出た実験もある。)
まず楔状欠損ですが、歯の頬側の歯茎寄りのところが削れて凹んでいる状態で、この方の場合だと、上顎の3番4番5番に顕著にみられ、元々あった歯槽骨も減ったと思われます。
それから上顎の歯茎の上の方にボコボコした隆起がありますが、これは外骨症といって経年的に大きくなるものです。
ですので奏法が確立した頃に比べて、歯の歯頸部付近が凹み顎骨の上部が出てくるという変化がおこったのではないか。それによって、演奏上問題が出てきたのではないかと思うのです。それをアダプターが補ったということです。

歯並びの状態~楔状欠損と外骨症がわかります
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アダプターを入れたところ(その後調整して薄くしました)
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とりあえず現在のアダプター
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次回は楔状欠損や外骨症の原因と思われる歯ぎしり・くいしばりについて書こうと思います。

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March 01, 2016

フルート演奏で下顎左側前歯は前に出る?

フルートを吹くと下顎が横に偏位するのではないかと、ずっと前から思っていました。単に私の周りにそういうフルートの方が複数名いるからです。なぜ下顎が偏位するかですが、それはアパチュアの位置に関係するのではないかと思っています。上唇の正中は少し尖っているため、アパチュアは左右どちらかにずれる。下唇は中央がアパチュアとなるので、下顎(あるいは下唇)を左右どちらかにずらさないと上唇のくぼみに合わない。おそらく構え方から左側にアパチュアが出来る方が自然ではないかと想像していて、下顎を左にずらして吹く人が多いのではないか。歯並びや口唇の形自体にもよるだろうから、アパチュアの位置は左右どちらも(あるいは中央も)可能性としてはありだとは思うが、右アパチュアだと頭というか肩の捻りが大きくなるのではないか。
私の想像をざっくり図にするとこんな感じ。絵心なさすぎですみません。

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このところ、プロのフルート奏者で左下の前歯が前に出てきたという方が2名あった。普通に考えると、アパチュアが左に来た時の楽器の構え方は口よりも手の方が前方に来るから、左下の前歯の方にリッププレートが当たる、つまり楽器からの圧力を考えると左下の前歯が後ろに下がってしまってもよさそうなものなのに・・・である。なぜだろうかと考えてみた。

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模型をよく観察すると、2名とも、右下の側方歯群(犬歯~小臼歯)が内側に倒れているのがわかる。下顎(あるいは下唇)を左側にずらして演奏すると、口唇周囲の筋肉は右の方が引っ張られて当然強くなるわけで、その影響により右下の歯に力がかかり、その影響で左下の前歯があぶれて押し出されたか、相対的に前になったか・・・と想像できる。そうなるとそれにより演奏に支障が出て、上の奏者は右下前歯と口唇の間が開くため息漏れがするようになり、下の奏者は左側だけ受け口になり息の方向のコントロールに難が出てきたというわけである。

もちろん、フルートは足の構え、肩の位置からして左右非対称の姿勢で演奏するわけで、人によっては頭を横に傾けて吹くし、身体全体の筋肉の使い方が非対称なので、いろいろな影響があるのだろうけど、フルート演奏は左右非対称の歯並びを引き起こすことがあるというのは間違いないと思う。近いうちに調査してみたいなと。

注:すべてのフルート奏者が下顎前歯の歯並びに影響がでると言っているのではないです。口唇・頬から歯列への圧力が左右対称の人もあるでしょうし、元々の歯並びや咬合力によっては影響を受けにくいことも多いと思います。

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February 05, 2016

表情筋・咀嚼筋モデル

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表情筋・咀嚼筋モデルが届きました!筋肉が一つずつ外せて磁石で戻ります。解剖学の教授をしている同級生が開発にたずさわっていて新潟の会社が作っています。
当院では筋機能療法やオーラルリフレクソロジーに取組む歯科衛生士さんたちの勉強用にと購入しましたが、管楽器の奏法を教える人にもとても役立つんではないかと思います。

もう10年以上前だと思うのですが、某管楽器専門誌で、金管楽器演奏のアンブシュアで「笑筋」がとても重要で、笑筋は咬筋に付着しているから、正しい奏法だと咬筋が疲労する・・・といった内容のインタビュー記事がありました。ええっ!であります。笑筋というのはエクボを作る筋肉で、世の中にはエクボを作れない(つまり笑筋が欠損している)人もいるくらい小さい筋肉で、咬筋に付着なんかしていないわけですよ。疲れた筋肉というのは咬筋ではなく頬筋の後方ではないかと予想しました(本当かどうかは確かめようがありませんが。)
解剖用語を使うのであれば正確であるべきで、良くわからないのなら、もっと漠然とした言葉で説明をすればよいのにと思いました。医学的な知識があれば、各筋肉の起始部・付着部がわかるので機能もわかるのですが、おそらく二次元の筋肉図をみて位置だけで判断されたのだと思います。
もしかしたら誤植という可能性もあると思い出版社に問い合わせました。いろいろな考え・主張があって当然でクレームするつもりはなく、誤植かどうかだけ知りたかったのに、出版社が勝手に問合せメールをその方に転送し、その結果、その方ご自身のHPに転載され悪口書かれてしまい、いやな思い出となりました。

こんな三次元モデルがあれば、管楽器奏法の理解も深まるのではないかと思います。購入ご希望の方は、こちらからお問い合わせください。医学用機材としては格安と思います。
http://www.mmi-co.jp/hyoujyoukin7.1.pdf

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February 01, 2016

親知らず用アダプター

先日プロのチューバ奏者が来院しました。

音が開くようになったのは、上の親知らずを抜歯したのが原因ではないか、ということでした。左は10年前、右は数年前に虫歯で抜歯。対合歯はない(下顎の親知らずは埋伏しており未萌出)。抜歯後は気が付かなかったが、綿を歯の大きさに丸めて親知らずの部位に詰めると調子が良くなるのだそうです。

音が開くという現象が具体的にはどういうことかなのですが、私の経験では何らかの原因で歯の開きが大きくなりアパチュアが大きくなった状態なのではないかと考えており、親知らずの抜歯により頬の支えが弱くなったために、下顎を開くことで頬をすぼめて頬を歯列に密接させるためではないか、と想像しました。

8番(親知らず)の部分だけのアダプターを作るのは難しい。やるとすれば、シリコン印象材を丸めて詰めるのも手だとは思いましたが、それでは綿を詰めるのとそう変わらない。一般的な歯科治療であれば、上顎7番(もしくは6番7番の2本)を削って延長ブリッジにすることで、8番を補うことはできるが、それでは健康な歯を削りその歯の寿命を明らかに縮めることになるので、お勧めはしない。

そこで、2つのプランを考えました。
1)上顎臼歯部の頬側面・頬側歯槽部にレジンを盛る(臼歯用アダプター):頬側を厚くするだけでも、上記の理由から効果があるのではないかと考えた。
2)薄く硬い素材のシートで歯のカバー作り、8番部分をポンテックにする。

試奏していただきました。
1)音が明るくクリアになったけど、違和感が大きい。息が抜ける感じがある。
2)舌側の違和感が大きい。切り取ってしまうと安定しない。

そこで、1)を調整することにし、可能な限り頬側のレジンを薄くし(厚さ1mm程度)、8番部分を付けて歯に近い大きさにしました。
舌が良く使えるようになったということで、音が開いた感じというのも舌が収まらないためだったのではないかということでした。ということで、一応目的は達成しましたが、問題はレジン(ユニファストです)を薄くしたので、破損の心配があることです。これで良いようなら、同じデザインで金属かノンクラスプデンチャーに使うような加圧重合レジンで作るとよいかなと考えております。
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親知らずを抜歯すると誰でも演奏に支障が出るわけではなく、多くの人は問題がないと思います。この方は上顎歯列の奥行きが大きく、抜歯後の歯槽骨が凹んだ形で直っているので、問題が出たのではないかと思います。

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親知らずの抜歯で頬の支え等が変化して演奏に問題が出ることはあっても、咬合に問題がない場合は、私としては補うのが困難なので、新しい状況に慣れてアンブシュアを再構築すべきと考えていました。しかしながら、精度の高い演奏のためには、ときには何らかの処置が必要になることがわかりました。歯科的には抜歯になる親知らずであっても演奏には必要なこともあり、安易に抜歯しない方がよいこともあるということでしょう。
親知らずでなくても、年齢のいった奏者の中には最後方臼歯である7番を何らかの原因で失う人は少なからずあるのではないかと思います。その場合、歯科的には放置が望ましいことも多く、演奏に問題が出ることはあると思います。そんな時に、こういった手段が役に立つかもしれません。

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January 29, 2016

演奏会で履く靴

皆さんは演奏会本番の靴はどうしていますか?(女性限定。男性はあまり演奏には影響ないよね。)

少し前に、ホルンの持ち方を変えた、つまりベルを膝(正確には右腿)に置いていたのをやめ、右手で持つことにした話を書きました。
今まで右腿にベルを置くために、右脚を後方に開き、普段は右のかかとを浮かせて高さを調整しており、そのため演奏会本番では浮かせずに済むようヒールの高い銀座かねまつの靴を履いて吹いていました。
ベルを持つことで、腿の高さの影響がなくなったのですが、ある日のこと、両足ともちゃんと床に着けると吹きやすいことを発見しました。両足を左右対称にし、骨盤も左右均等に体重が乗るようにし足も体も顔も正面を向くようにすると調子がよいようなのです。ロングトーンもいつもより続くし音も外れない。

この半年ほど、テレビショッピングで購入したウォーキングシューズがとっても楽で、色違いで2足購入し、普段も診療中も履いておりまして、オケの練習もいつもこの靴でした。1足定価3万円超という有り得ない値段(実売半額以下)ですが、この靴だと足裏全体に荷重がかかるので、それがまたよいのでしょう。

さすがに健康サンダル的なこの靴(そもそも黒くない)で演奏会本番というわけにもいかず、考えました。足裏全体に荷重がかかるよう、全体に靴底があり、そこそこのヒールの高さで土踏まずもカバーされているパンプスをネットで見つけ、演奏会はこれで臨みました。歩くのは楽ちんなのですが、軽すぎて足の安定感が今一でした。やはりいつもの健康サンダルの黒いのを調達すべきでした!少々重さも必要だったのでしょう。

それでも本番が終わった翌日、いつもと違い全くノーダメージだったのです。全曲乗り番で高い音も低い音もそれなりに大きい音でたくさん吹いたはずなのに、です。元々唇にはダメージがない方なのですが、吹きすぎた後は頬に疲労感が残ったり、首や背中の筋肉痛が出たりしていましたが、今回それがなかったのであります。
やはり体をひねることなくまっすぐに構えて、それに合わせて楽器をもってくるというのがいかに大事かわかりました。そして、足の姿勢も重要だということです。おそらく体幹が安定するのだと思います。

(肩幅程度に足を広げて吹きましたが、足を揃えて吹くと体幹の筋肉が緊張して良い音がするような気もします。でも疲れる・・・後日要検証。)

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January 13, 2016

矯正治療後の安定について

矯正治療で歯列を治した後は「保定」といって後戻りを防止する装置を使い安定させるのが一般的な治療であります。保定の方法はいろいろありますが、固定式と着脱式のものがあり、およそ2年間保定装置を使うのが通法でしたが、最近は半永久的に固定するべきと言う専門家も多くなっているように思います。

管楽器の場合、固定式だと演奏に支障が出ることがあり、私は基本的には着脱式をお勧めしています。当院では薄いマウスピース型(歯列をシートで覆うタイプ)のリテーナーを使っていますが、違和感が少ないので皆さんよく使っていただいています。
固定式だとシラブルに影響が出たり、金管楽器だと少なからず息の流れが変わるでしょうし、歯に何らかの力がかかると固定した歯が塊で動いてしまう恐れもあるのではないかと想像しています。マウスピース型の装置だと、管楽器演奏で歯が動く力がかかってもマウスピースに歯を戻す力を持っているので安心です。また、管楽器奏者にとって歯ぎしり等で歯が咬耗して歯の形が変わっては困りますが、リテーナーがナイトガード的な役割も果たし予防できます。
ですので、当院では矯正治療後半年間は1日16時間前後、その後1年半は毎日夜のみ使用していただきます。2年経っていやじゃなければ就寝時のみ継続、毎日じゃなくても週数回でも使うと安心ですよとお話をしております。リテーナーをやめて5年10年経って少々の後戻りをしたとしても、数か月で治すことが出来るので、2年でやめて清々するのもよいと思うのですが、管楽器奏者の方は続ける方が多いです。

先日、当院で約10年前に治療したサックス奏者が来院されました。音大受験前に相談に来られ、合格してすぐに矯正治療を開始。矯正しながら音大生活を送りコンクールも受けていました。現在はアメリカに留学中で一時帰国でチェックに来られました。良く安定しているので写真を載せさせていただきます。矯正治療期間は1年11か月、小臼歯3本抜歯して(右上犬歯は先欠)表側のブラケットで治療しました。矯正終わって約8年経過しています。

矯正治療前
12 11 13
矯正治療後(矯正器具を外し保定開始)
22 21 23
現在(矯正治療終了8年後)
32 31 33

治療後8年経った今でも、長時間の演奏や、バリトンサックスを吹いた後などの歯に負担がかかったときは、歯が動きそうな感じがするということで、リテーナーを使用するのだそうです。大体週に1回程度とのこと。

シングルリード楽器(クラリネット、サックス)は、上の前歯が前方へ、舌の前歯が後方へ傾斜する力がかかるので、特に上顎前突の場合は後戻りをする可能性が考えられます。そういう認識をお持ちの歯科医も多いのか、楽器をやっているとどうせ後戻りをするから吹奏楽をやめてから矯正治療を始めなさいと言われたという高校生がいました。きちんと直せば管楽器を吹いたからといって後戻りはしないし、後戻りしたとすれば口呼吸など別の原因もあるのではないかというのが私の考えです。


※患者さんご本人の許可を得て掲載しています。

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